ストーリー
英国上流階級の自称有名推理作家アンドリュー・ワイク(志村要)は、妻マーガリートと別れ、若い愛人と一緒になるために策を練る。それは妻の愛人イタリア系下層階級の旅行業者ミロ・ティンドル(下村尊則)を邸宅に招き宝石を盗ませ、故買屋に売らせるというもの。マーガリートを愛しながらも彼女の浪費癖に応えることが出来ないミロは莫大な金を得て結婚でき、アンドリューは宝石に掛けた保険金と新しい愛人を得るという計画である。
最初おずおずしていたミロもウイスキーのグラスを重ねるうちに居直っていく。「犯罪ゲームだよ。ゲームだよ」と繰り返すアンドリューの提案に乗ったミロは、宝石強盗計画の共犯者となり変装して一緒になって屋敷を荒らし始める。ゲームが進む中に飛び交う英国流ブラック・ユーモア、人種差別用語、上流社会への皮肉。ピストルの轟音。殺人は「嘘から出た誠」か「誠から出た嘘」なのか。犯人は誰、死んだのは誰?
傑作推理劇の再演
「この劇をブラウン神父、フィリップ・トレント氏…ムッシュー・エルキュール・ポアロ、これら万能にして気まぐれなアマチュアの紳士諸氏すべてに、心からの敬愛の念を込めて、捧ぐ」
作者アンソニー・シェーファーの献辞にあるように、これは作者の推理作家として先達へのオマージュであり自信作である。
1970年ロンドン初演以来6年に渡るロングラン、批評家にも観客にも大好評で常に世界の何処かで上演されている。映画化の方でも1972年にはアンドリュー役にローレンス・オリビエ、ミロ役にマイケル・ケインという豪華キャスト、2007年のリメイクでは推理小説家にはマイケル・ケイン、ミロにはジュ—ド・ロウと当代のトップ俳優が演じている。
劇団四季でも1973年の日本初演以来、再演を重ねている。
「探偵スルース」というと作者と演出に関心が集まってしまうが、忘れてならないのは二人の俳優。志村要は頑固でしかも好色な英国の上流階級の老紳士を好演し、下村尊則はその妻を狙う若さ溢れた小狡いイタリア系下層階級市民のしたたかさを達者に魅せる。
古色壮大な邸宅、等身大の笑う水夫、チェスの駒。「騙されないぞ」と舞台に集中しているうちに肝心のものを見逃した気がする。
演劇通好みの傑作。京都公演でぜひもう一度確認したいものだ。
(東京公演11月28日まで。京都公演2011年1月3日〜29日)
2010.12.4 掲載
|