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宝塚BOYS

自慢じゃないが子どもの頃、熱心なズカ・ファンだった姉に連れられて行った宝塚大劇場で、「虞美人」のオーケストラ・ピットから響いた男声合唱をリアル・タイムで聞いている。実はこれが宝塚BOYSの出番だったのだ。

しかし、その後はオン・アンド・オフで宝塚のファンになっている私としては、この公演を観るまで「男子生徒」がどんな思いで舞台を見上げ健気に務めていたかは考えが及ばなかった。

「宝塚BOYS」は日本の敗戦直後の1945年から54年の九年間に渡って存在した男子部の実録に基づく、面白くも哀しい青春グラフィッティー。劇場ロビーの会話を聞くと、この公演でもそれぞれの「男子部研修生」に宝塚のスターと同様のファンがリピーターとしてついているらしい。

九州大分の人間魚雷回天の基地で敗戦を迎えた青年、上原金蔵の宝塚創始者小林逸翁への直訴の葉書で男子部が結成され、第一期生が集まったのはその年の12月。特攻帰り、闇市の愚連隊、電気屋、宝塚歌劇団オーケストラのドラム叩き、旅役者など、いずれもひと癖ある面々が食糧不足で命を繋ぐのがやっとの時代に、いやそれだからこそ美しいものを求めて集まったのである。

宝塚BOYS

女の園に甘い希望を持って集まった者たちも、女生徒との接触は禁止され、大劇場の舞台に上がる日を夢見て声楽にダンスに猛特訓で取り組む姿が、滑稽でありながらそこはかとなく哀しい。肉親の戦死公報、才能あるダンサーからの苛め、仲間同士の諍いと友情、遠く聞こえる阪急電車のゴトン・ゴトンの響きが昭和レトロポクッテ、懐かしい雰囲気を盛り上げる。若者7人を厳しく監督するのは経理部の池田和也、元宝塚生徒の君原佳枝は寮母として暖かく支える。

圧巻はフィナーレ前の大階段。7人の研修生がトップハットにタキシードで決めて現れると、場内はもうスタンディング・オべーション。これこそ男子部研修生が求めていた夢の舞台である。寮母役の初風 諄が「すみれの花咲く頃」を歌って更に拍手が盛り上がる。

8月25日100回記念公演後のトークによると、この作品は今後とも日本全国で再演されるそうだ。
(シアタークリエ9月1日まで 兵庫県芸術文化センター9月4日・5日)

2010.9.7 掲載

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