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劇団四季 The Sound of Music「ドはドーナツのド」

サウンド・オブ・ミュージック

イタリア人はオペラを歓劇中に感動して出演者と一緒になってアリアを歌っても許されるが、日本でそんな事をしたら周囲の顰蹙をかってしまう。
  そこで悩ましいのは劇団四季の"The Sound of Music"だ。

「マリア」(Maria)、「私のお気に入り」(My Favorite Things)、「さよならまたね」(So Long, Farewell) は自己流の替え歌も仲好しグループごとに作られて、ミュージカル・ファンならずとも多くの人々が生活の場で自由に歌っている。

なかでも「ドレミの歌」はペギー・葉山さんの名訳詞が学校の教科書に載っていて、日本中で小学生からお父さん、お母さんまで「ドはドーナツのド」と歌っている。この作品のこけら落しカーテン・コールでは、葉山さんご自身がリードして客席と一緒に「ドはドーナツのド、レはレモンのレ」と歌ったが、公演中は是非共客席も一緒になって歌わせてほしい。


子役は児童俳優で

今回のアンドリュー・ロイド=ウエバー版の特色は子役を小柄な女優でなく、本物の児童俳優が演じていること。フォン・トラップ家の子ども7役のうち16歳の長女を除いて6役が本物の子どもたちだ。一役5人のチーム合計30人が4カ月に渡って「母音法」など四季劇団の特訓を受け、デビューしたのだという。

軍隊式に笛の合図で子どもたちを動かし、歌うことを禁じたトラップ大佐のもとに家庭教師として修道院から派遣されたマリアは、嵐に怯えた子どもたちを抱きかかえて"私のお気に入り"を歌い、子どもたちの心を開かせる。

チェストに閉じ込められた一番幼いグレーテルが、犯人のお兄ちゃんを信頼するマリアに言いつけるなど、結びつきが深まる様子も子役が子どもだからこそ感動がある。

サウンド・オブ・ミュージック

劇団四季が歌を2曲カット、休憩時間も5分カットしてまで子役たちがソワレのカーテン・コールに出られるようにしたのも、子役を味噌っかすでなくプロの児童俳優として認めたようで嬉しい。満場の拍手を浴びてご挨拶することこそ、役者冥利だ。実際、カーテン・コールに登場する児童俳優たちの顔は、舞台を立派に務めたという誇りで輝いている。

ライオン・キングの子役たちがいまや大人のミュージカル俳優として活躍しているのを見るにつけ、「サウンド オブ ミュージック」出身のスターが日本や海外のミュージカル界でどう活躍するか楽しみだ。


サウンド・オブ・ミュージック

家族・学校で観劇を

緑の丘の上で裸足で山々に向かって歌うマリア(井上智恵)のお転婆で女の子らしい姿、厳格に子どもたちを育てながらマリアの影響で「サウンド オブ ミュージック」(歌の力)に気付くトラップ大佐(鈴木綜馬)、マリアの個性を理解し彼女に自分の生き方を見つけさせる寛容な修道院長(秋山知子)、いずれも適役だ。

"The Sound of Music"は第二次世界大戦前、ナチスの侵略下でのオーストリアの姿を、マリア・オーガスタ・トラップ著の「トラップ・ファミリー合唱団」による骨太の土台に、一度耳にしたら口ずさみたくなる素直な歌の数々を盛り上げ、忘れられない作品に仕上がっている。

ニューヨークでミュージカルを見た人も、映画でジュリー・アンドリュースのマリアに共感した人も、今度は是非子どもたちと一緒に見てほしい。

夏休み観劇リストの第一位に推薦したい。(劇団四季 秋 9月30日まで)

2010.6.2 掲載

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