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子どもたちに見せたい劇団四季11年目の「ライオンキング」

劇団四季「春」劇場で11年目のロングラン中の「ライオンキング」を観劇した。

劇場では以前4−5年生らしき小学生のグループと同席したことがあるが模範的な観客だった。今回は幼稚園児たちが真後ろの席に。幼すぎて劇の内容が理解出来ず、途中で騒がねばよいがと心配したが、とんだ杞憂だった。クッションを重ねた座席の上にチョコンと座った子どもたちのマナーの良いこと。

30人近い園児たちはシンバの誕生を祝って座席の通路を通って舞台に進む、象やキリンなどのオープニングのパレードに歓声をあげて拍手するが、ヒヒの呪術師ラフィキが「サークル オブ ライフ」(生命の循環)を歌いだすとピタリと口を噤んで集中する。先生らしき姿は二人しか目につかなかった。


子どもたちを育てる作品

常常筆者は「ライオンキング」は子どもたちが観劇する最初のミュージカル作品であってほしいと願っている。「生命の循環」という地球社会普遍のテーマを細部までこだわったエンターテイメントに仕立てて子どもに迫力を持ってアピールしてくるからだ。

動物王国に王子シンバ誕生

広大なアフリカの大地に昇る金色に輝く太陽、百獣の王ライオンですら生命の循環の中では死ぬとその肉体は土に戻り草木の糧となる。理屈で「理解」させようとすると難しい命題がこの作品では子どもなりの感性で素直に受け入れられる。

ヤング・シンバが背伸びして仲間たちと歌う「早く王様になりたい」、イボイノシシとミーアキャットが陽気に踊る「ハクナ・マタータ」(くよくよするな)など客席で子どもたちが一緒に口を動かしながら楽しんでいるし、ヌーの大暴走から必死で逃れるヤング・シンバの姿には身体を固め息を詰めて見守っている。

これだけのエンターテイメントとメッセージを「お説教ではなく」そのまま子どもたちに伝えられる作品は今、現在「ライオンキング」以外にはないのではなかろうか?


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ナラのパワー

横浜のある小学校の子どもたちの間で「ライオンキング」ごっこが流行ったことがある。不人気のスカーはなり手がなくて困ったらしいが一番の人気は勿論ヤング・シンバとヤング・ナラ。中でもナラの方がシンバより「強い」と女の子の間で役の取り合いになったという。

そういえば、子ども時代に二度、成人してからも一度、一対一ではナラがシンバをやっつけている。

また、シンバの父ムファサ王の時代も叔父スカーが王位を継いでからも狩に出てライオンの群れ全体に食物を供給してきたのは母王妃サラビと雌ライオンたちだ。ライオン王国ではオスは縄張りを守り子孫を残すのが仕事で毎日の生活を支えるのは女性の実力である。

その小学校では「喧嘩両成敗」を建前とする先生がいた。PTAとの摩擦を恐れてのことと思われるが、先生の限界に気付いた女の子が男の子たちのイジメに分け入って論理を尽くして納得させたという。日頃、優しいと仲間に慕われている女の子がこんなところで「ナラ・パワー」に啓発されていたとは驚きだった。

ライオンキングといえば、通常アフリカの大自然の中でのヤングシンバの王者となるまでの成長記と捉えるようだが、女の子たちには王国を支えるナラの実力を評価する別の視点もあったのだと気付かされた。

劇団四季ミュージカルの子どもたちへの影響は、確実に広がってきているようだ。(劇団四季「春」劇場ロングラン中)

2010.2.13 掲載

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