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新春 人生革命

この公演を天井桟敷ともいうべき二階最後列の補助席で観劇出来て、本当にラッキーだった。
  普段は背後にしか感じない観客と一緒になって森光子と滝沢秀明のフライングに固唾を呑み、森の「もみがら枕の子守唄」に泣きながら、日本最高のエンターテイナーたちの共演を楽しめたからだ。

このコラムは「シアター通よりシアター好き」と名乗っているが、こんなシチュエーションで観劇すると、まさに役者や裏方の実力ばかりでなく、お客様の熱気そのものがシアターを創っていると実感する。

今回、特徴的だったのはヤング、中年、高齢者の三世代の観客が同じ場面で笑い、同じ場面でハラハラしていたこと。興行師ジャニー・喜多川はヤング向き、中高年向きに住み分けされていた演劇の客層を、森光子と滝沢秀明との共演により一気に三世代をとりこにした。


新春「人生革命」。
森光子、滝沢秀明の京巡り

「人生はロングラン」

「新春人生革命」は、森光子自叙伝「人生はロングラン」を原作にジャニー・喜多川がフィクションとして作り上げた舞台。京都に生まれ国民的大女優の地位と尊敬を集めながら、若者たちと共に更なる挑戦を続ける森と、彼女を「母」と慕って芸の道に精進するヒデアキ(滝沢秀明)のストーリーだ。

芸歴75年の森は甘辛い、またしっとりした「放浪記」、「桜月記」など過去の舞台の回想に加えて、ヒデアキとジャニーズのABC-Z、Kis-My-Ft2との絡みで乙姫様、かぐや姫など変化自在の衣装でも観客を魅了する。若者たちに時に厳しく、時には優しく接する姿は、気さくで可愛い彼女の人柄そのもの。観客はフィクションの舞台に森光子の実像を重ねてしまう。

滝沢は壮大なフライングに続いては、森の劇中劇「白糸の滝」の華麗な水芸シーンと同時進行での女形姿で大立ち回り。1階前列席のお客さんたちは水しぶきを浴びて大喜びしている。マチネでこれだけの舞台を務めながら、ソワレでは「新春滝沢革命」でさらにド派手なフライングとアクロバチッックなジャンプを披露するのだから、若い座長の体力は米軍海兵隊員より優れているのかもしれない。


森光子「滝の白糸」の水芸に
滝沢英明の大立ち回りが同時進行!

麗しい家族の原風景

大女優、森光子と若き座長、滝沢秀明との共演を仕掛けたジャニー・喜多川はこの日を予測していたのだろうか?

二人の接点は15年前、1995年の滝沢秀明が13歳時のテレビ・ドラマ初共演から始まり、その後は節目節目で森主演のドラマへの参加、また森光子の「ジャニーズファンタジー」出演や2006年には滝沢の「滝沢演舞城」初演の際、森が冒頭ナレーションを担当するなど交流が続いている。

滝沢が座長に成長しても謙虚に森を尊敬し、かつサポートしている姿は、誰もが郷愁を抱く家族の原風景であり、幼少のころから育てた若者に未来を委ねたい高齢社会日本の理想像を見るようだ。

帝国劇場を後にする老若男女のお客さんたちの顔がいずれも幸せそうだった。(帝国劇場2月6日まで)

2010.2.4 掲載

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