「ミュージカルの値打ちはハッピー・エンド。シアターを出るのは笑いながら」という筆者の独断と偏見は、「ブラッド・ブラザーズ」(脚本・音楽・作詞/ウイリー・ラッセル 演出/グレン・フォード)の観劇後、訂正を余儀なくされた。
劇場を出てくる観客は未だにハンカチを握り締めながら、またはハンカチはバッグにしまっても泣きはらした瞼ははれぼったい。ところがいずれも「吾 観たり、吾 生きたり」とでも言うような、和やかで満ち足りた表情だ。
ロンドンで25年間のロングランを続けているミュージカルのエンディングは、血を分けた双子の兄弟の殺しあいだ。母親は貧しさに負けて一人を裕福な家庭に養子に出したことを後悔して、胸をはりさける叫びで訴える。お互いに双子同士とは知らず親友として付き合っていた若者たちは、血を分けて兄弟とわかった時は死ぬときであった。
見どころ
母親の悩み、増加する若者の失業、未だに立ちはばかる階級社会の壁など、芝居の舞台となっている一昔前の英国の港町リバプール(ビートルズの故郷)と東京の現状は共通項が多い。
しかし観客を感動させるのは、二組の役者魂に満ち溢れた若者と母親チームだ。
ひたむきに舞台を務める武田真治(ミッキー)と岡田浩暉(エディー)の若さが舞台で輝いている。
「長い日曜日、からっぽの日曜日」
エディーを思って歌う子ども時代の武田ミッキーはどこまでもいじらしく、岡田エディーは成人して青年紳士になってからの姿がダンディーで魅力的だ。
貧困ゆえにわが子を養子に出す母親、金志賢(ミセス ジョンストン)と、裕福な中産階級だが不妊に悩む久世星佳(ミセス ライオンズ)の控えめで押さえに押さえた忍耐を爆発させる場面にも観客の共感が集まる。
ストーリー
リバプールで貧乏なミッキーの家と裕福なエディーの邸宅をわけるのが町の広場。ミッキーと悪がきどもが「10数えたら生き返る」撃ち合いごっこで騒ぐのを窓越しに一人淋しく眺めるエディー。二人が同じ誕生日とわかって親友となるが、養子の秘密を知られるのを恐れてミセス ライオンズは郊外へお引越し。
ところが数年後に区画整理でミッキーも郊外へ引越し、またもや二人は遭遇するが、今度は日雇い労働者と大学生の身分違い。失業したミッキーは兄に片棒担がされ、強盗の一味となり投獄される。妻のリンダは彼を社会復帰させるため、今や地方名士となったエディーに助けを求めるが、二人の仲を疑うミッキーの手には銃が・・・。
ミッキーとエディーは武田真治×岡田浩暉と藤岡正明×田代万里生、ミセス ジョンソンは金志賢×TSUKASAのダブル・キャスト。
それぞれ贔屓の出番に合わせてリピーターの観客が増えている。(シアタークリエ 9月27日まで)
2009.9.20 掲載
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