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“Romeo & Juliet”(振付/ジョン・ノイマイヤー 振付指導/エヴァ・クロボー 音楽/セルゲイ・プロコフィエフ)

セバスティアン・クロボーとスザンネ・グリンデルの「ロメオとジュリエット」を見た人は、最もラッキーでかつ最もアン・ラッキーなバレエ観客かもしれない。

「ラッキー」というのはセバスティアンとスザンネの若々しく、しかも優雅なパ・ド・ドウに恍惚となれたこと。「アン・ラッキー」というのは、今後どのダンサーの舞台を見てもこのカップルと比較してしまうこと。

鬼才ジョン・ノイマイヤーは、ボリショイ・バレエが古典として80年近く大切に守ってきたシェークスピアの悲劇を、現代の若者の心情に添って大胆に新しくロマンチック・バレエとして再生してしまった。

スザンネがティーン・エイジャーらしく、浴室の場面ではタオル1枚を身にまとって悪ふざけるのが可愛くて会場の笑いを誘った。が、その彼女も保守的な母親のすすめる従兄弟の婚約者を拒否する自立心を示す。

一夜を過ごした後のロメオとジュリエットのパ・ド・ドウは官能的で、しかも清らか。若い2人の生きる歓びに満ち溢れた姿が観客を魅了する。

デンマーク・バレエが世界に誇るブルノンヴィール・スクールの独特のリンキングステップ技術を完璧に叩き込まれたカップルが、ノイマイヤーの斬新かつ詩的な振付を得て表現する躯体の美しさに、観客は吸い寄せられ、やがてその溜息がそっと会場に広がっていった。

しかし、なんといってもこのバレエの看板は貴公子セバスティアンであろう。父親がロイヤル・バレエの元芸術監督、母親が前プリンシパル・ダンサー(今回の公演は振付指導者)というサラブレッド育ちで、家庭内の会話の大半がバレエに関するものばかりだったので、かえってダンスにはなんの興味ももたなかったという。

ところが、日本のバレエ団のリハーサルをみて、忽然と興味を抱き、ロイヤル・バレエ学校に入ったのは13歳。他の子どもたちとは4−5年も遅かった。しかし、天賦のDNAと自己責任で道を選んだ若者は、瞬く間に頭角を現わし、同期の仲間を追い抜いて19歳でジョン・ノイマイヤーにロメオ役に抜擢された。

その後順調に舞台を重ね、今年1月、コー・ド・バレエからソリストへ昇格。

甘いフェイス、スリムな筋肉質の長身はロマンチック・バレエのロメオ役にぴったりで、伝説のバレエ・ダンサー、ルドルフ・ヌレエフを偲ばせる。

ところで、本年12月には第15回国連気候変動枠組条約国会議がコペンハーゲンで開かれる。議長国デンマークでは各国へのPRと国を挙げて地球温暖化防止キャンペインに取り組んでいる。コニー・ヘデゴー デンマーク気候・エネルギー相は5月18日に日本記者クラブで会見した。実は今回のバレエ団の9年ぶりの来日もこの会議の啓蒙活動の一環だ。

デンマーク大使館の歓迎会で、バレエ団総監督ヘンリック・ステン・ピーターセンさんは「持続可能な発展」をキー・ワードに、国際会議期間中にはデンマークのハイテクを駆使して、再利用可能なファッショナブル衣装、電力節約でしかも斬新な照明で新機軸のバレエ「ナポリ」(オリジナル振付 オーギュスト・ブルノンヴィール 1842年)を公演すると筆者に語った。

セバスティアンの次の出番が楽しみだ。(2009年5月22日 東京文化会館)


番外編 “EGG”

国際フォーラムの内庭で昼休みに憩う会社員たちに、5月14日、デンマーク・ロイヤル・バレエからサプライズ・プレゼントがあった。

激しい音楽と共に突然現れた黒衣の美女は、ポツンと置かれた卵形の椅子を相手に生命の受胎から誕生までの姿を浮き彫りにした。

踊り手はソリストのティナ・ホイロンさん。

実は、日本公演のスポンサーの一つがデンマークの世界的家具メーカー、リパブリック・フリッツ・ハンセンでEGG(卵型安楽椅子)はその代表ブランド。周囲のサラリーマンたちはメディアのカメラ・パーソンと並んで携帯で写真を撮っていたが、バレエ公演のPRとスポンサーへの謝意を表す適正な企画だった。

因みに北欧家具というとスウェーデンを想像するが、本年4月の財務省貿易統計によると、デンマークから日本へのここ数年の家具輸出はスウェーデンの3倍だ。リパブリック社には今後とも両国の文化交流への貢献を期待したい。

2009.6.10 掲載

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