平日の夜というのに、東京文化会館はシニヨンを結った小さい淑女たちにロビーが占領されたようだった。付添いの大人たちや観客の若者たちの姿が遠慮がちに見えてしまう。
バレエ学校校長のトーク
バレエ公演前のエリザベット・プラテル校長の講演には、来場者が詰め掛けて会場のドアが開いたままの状態。
元オペラ座エトワールのプラテルさんは、300年にわたる世界で最も古いオペラ座の歴史とそのバレエの特徴 "パ"、(膝から下、爪先の動き、女性ダンサーのポワントなど)を説明し、彼女が校長になってから取り入れた、パントマイム、民族舞踊の影響などについてもわかりやすく述べた。
バレエ学校在校生は現在約150名。8歳から11歳の男女の子どもたちを筋肉のつき方や腱の長さなど身体能力を基準に、年2回のオーディションで選抜。その後6年間、毎年の選考試験で人数を絞り、学校公演やオペラ座バレエ団への子役としての参加を経て、最終的に卒業生は空席に応じてバレエ団に採用される。
万一採用されない場合でも、オペラ座バレエ学校卒業生ともなれば、世界中のバレエ団から引く手あまただという。
熱心に聴いていた会場の子どもたちと保護者から思わず溜息がもれたようだ。
6年生から1年生までの公演
バレエ学校では新入生を6年生と呼び、最終学年を1年生と呼ぶ。1年生はコール・ド・バレエとしてオペラ座バレエ団の正規公演にも参加するプロだ。
"ペシェ・ド・ジュネス"(青春の過ち)はパリ・オペラ座学校を16歳で卒業し、オペラ座のエトワールになったジャン=ギョーム・バールが振付けた"パ"に特徴のある作品。ジョアッキーノ・ロッシーニの弦楽ソナタの抜粋曲にのり、生徒たちはフランス・バレエのこの古典的技能を流れるように自由にそして正確に表現する。
"スカラムーシュ"(道化師スカラムーシュ)は、プラテル校長がバレエ学校最年少の6年生と5年生のためにオペラ座の現役エトワールであり振付師のジョゼ・マルティネスに依頼した作品。子どもたち自身のバレエにたいする気持ちが溢れかえっている舞台となっている。
道化師をからかう子どもたち、ネズミたちの愉快な踊り。アニエス・ルテステュの色彩豊かな衣装も楽しい。子どもたちはこらえ切れず観客席でクスクス笑い出した。一緒に座っていた日本のバレエ教室の先生たちにも次の発表会へのヒントを提供したのではなかろうか。
"ヨンダーリング"(遥か彼方へ)では、トーマス・ハンプトン(バリトン)の歌うスティーヴン・フォスターの名曲「金髪のジェニー」や「夢路より」にのって最上級生たちが踊る。
オリジナル振付と衣装はジョン・ノイマイヤー。先日NHK教育テレビで放映したローザンヌ国際バレエ・コンクールで多くの若者が選んだ作品なので、バレエ愛好家たちの集中度はさらに強まる。
明日のオペラ座バレエ団のエトワールたちの無垢で新鮮な踊りは、会場を興奮の渦に巻き込んでしまったようだ。
フランス大使館文化部によると、オペラ座バレエ学校の経費は全て政府による公費でまかない、保護者の授業料負担はない。また、一切スポンサーもつけない方針だという。
バレリーナを目指す小さな淑女と保護者たちが、憧れのオペラ座バレエ学校日本公演に詰め掛けたのも当然といえば当然だ。(2009年4月28日 東京文化会館にて)
2009.5.26 掲載
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