劇団四季ではオリジナル・プロダクション音楽監督、キンバリー・グリッグスビーさんを迎えて、ミュージカル「春のめざめ」制作発表会をこのほど都内のホテルで開いた。
この作品は思春期の性に目覚める若者たちの精神と肉体の葛藤を赤裸々に描き、セックスと妊娠を大胆にロックに乗せたミュージカルで(台本・歌詞/スティーヴン・セイター 音楽/ダンカン・シーク、演出/マイケル・メイヤー)、この春から劇団四季の新進演出陣と若手俳優によって上演される。
原作は1891年ドイツの劇作家フランク・ヴェデキントの戯曲で、当時の社会道徳では到底受け入れられない内容として発禁処分になっている。台本を書いたセイター氏は、米国コロラド州コロンバインでおきた少年たちの銃乱射事件をきっかけに、現代の米国にも共通する若者たちの愛と欲望に対する社会の無理解をアピールしたかったのだという。従ってミュージカルでは原作と異なり、主人公は自殺を思い留まり、生き抜く決意をする。
作品の刺激的な内容と表現にブロードウエイでは賛否両論を巻き起こしたが、結局2007年トニー賞の最優秀楽曲賞、最優秀作品賞など8部門を受賞している。
帰国子女と若手俳優の活躍
劇団四季でのこの作品上演の特徴は、帰国子女と若手の登用。新進演出家横山清崇と共にスタッフに抜擢された演出助手の宇垣あかねと由水南は、子ども時代を英語圏で過ごした。2人は「春のめざめ」のロンドン公演の稽古とプレヴューまで2カ月間密着して、オーディションで揃えられた16歳から24歳の若者たちが俳優として力をつけて行く過程に立ち会ってきた。
歌舞伎や新劇と異なり、ミュージカルでは役者の実年齢と役柄の年齢差が観客に見えやすい。10代の若者たちを劇団四季のどの俳優が演じるのかと心配していたが、制作発表会の舞台で「春のめざめ」のナンバーを披露する20歳半ばの11人のパフォーマンスを見て納得した。
すべて劇団四季と研修所内部のオーディションで選ばれたという。
"Mama Who Bore Me"(私を生んだのはママなのに) 性教育から逃げる親たちに訴えるナンバーは歌う役者の年齢が役柄に近いことが観客の共感を呼ぶだろう。
高校生とPTAに
お行儀のよい劇団四季が露骨な性描写を舞台にかけるのは冒険だし、従来のファン層にも賛否両論があるだろう。
しかし、「ユタと不思議な仲間たち」などで学校教育でのイジメの問題など率先して舞台にかけている劇団だからこそ、思春期の心情と刺激的な性行動への衝動を表現しても観客が真剣に受け止めるのではないだろうか。
そういえば劇団四季の「心の劇場」で育った子どもたちの多くは既に高校生になっている。一部の北欧諸国を除くと、米国でも日本でも性の問題は教室でも家庭でも話題にしづらい。高校生とPTAに「春のめざめ」団体観劇を薦め、学校と家庭で「性」と「生命」の問題を考えるきっかけにしてほしいものだ。(自由劇場5月2日(土)開幕)
2009.3.29 掲載
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