劇団四季が1954年1月22日、旗揚げ公演に同じジャン・アヌイの戯曲でも観客が解りやすい「アンチゴーヌ」でなく、なぜ上流階級家族の何重にも重なる不倫劇「アルデールまたは聖女」を取り上げたのかがずっと疑問だった。
55年後の今回、公演初日の挨拶で浅利慶太氏が「われわれはフランス映画を見すぎていた」との一言で、納得がいった。劇団創立メンバーである慶応・東大の仏文科の学生たちは、当時の日本新劇界が取り上げない極めてフランス的な大人っぽい作品にチャレンジしたのだろう。
舞台はフランスの避暑地にある将軍宅の大ホール。背中に異常があって聖女のごとく静かな生活を送っていた妹のアルデール(舞台に姿を見せず)が同じく背中に異常のある家庭教師と恋に落ちたというので家族たちが急遽呼びつけられる。アルデールの妹、伯爵夫人であるリリアンヌ(野村玲子)は夫の伯爵(味方隆司)と夫公認の情人(栗原秀雄)を伴って現れる。将軍(志村要)と女中との不倫、気のふれた将軍の妻。会話が展開するにつれ、上流社会の偽善と情事が露になってきてしまう。いまや純愛を貫けるのは身体障害者だけなのか?
「台詞は一音も落とさない」劇団四季の伝統の会話劇だと台詞に耳を傾けていたが、目を開いたら大発見があった。それは野村玲子さんの新しい魅力である。
「鍛え上げたセクシーさ」野村玲子の今更の魅力
野村玲子さんをセクシーと評するのは、劇団四季の看板女優に対する“冒涜”だと怒るファンもいるかもしれない。しかしこの不倫劇で初めて見せた彼女のプリプリしたお尻から腰に流れる見事な身体は、一言で言って「セクシー」。スタジオとジムで長年鍛えぬかれたものだろう。
コスチュームがまた彼女のセクシーさを強調している。情人を連れまわすリリアーヌ(野村)の着る当時のトップ ファッションは、上半身をLeg Of Mutton Sleeve (羊脚型スリーブ)のブラウスでゆるやかに被い、下半身はフルレングス スカートで細身に締める。
臙脂色のブラウスは胸を大きく広げ、肩から肘まではパフスリーブでゆったり膨らまし、肘からは細かいボタンで手首まで締め付ける。その下が腰高にフィットしたフロア・レングスの黒いスカートなので、リリアーヌがアルデールを自室の閉じこもりから引き出そうと舞台中央の階段を上下する度に見事なお尻の筋肉の動きが見える。
野村の主演作を振り返ると「オンディーヌ」では人間離れした薄物のヴェールを身にまとい、「李香蘭」の中国服は確かにスリットが切れ上がっていたが特別の感想は湧かなかった。
「鹿鳴館」の朝子は、和装では引き裾の褄を取った芸妓時代を偲ばす着物姿。洋装ではパットを入れヒップを大きく膨らませたBustle(腰当てスタイル)の鹿鳴館ドレス。豪華だと感じたものの、いずれも衣装の中身までは関心が及ばなかった。
このお芝居で野村玲子が見せた身体。「おぬし、やるな」と改めて感嘆した。野村玲子といえば伝説の清純可憐派、彼女のセックス・アピールなど論じた人はいるだろうか? 筆者も今回の階段を何度も上下する動きを見るまでは意識したこともなかった。しかし、この鍛え上げた躯体だからこそ伯爵も情人も彼女から離れられないし、気力体力を要する看板女優が務まるのだろう。
野村玲子さんと、彼女のセクシーさを舞台で披露させた高橋知子さん他5人の劇団四季技術部衣装チームに乾杯。(劇団四季 自由劇場 2月4日まで)
2009.1.29 掲載
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