劇団四季「卒業」後、1年間の充電期間を経て石丸幹二がやっとミュージカルの世界に戻ってくる。このほど東京で開かれた“A New Brain”制作発表の場で石丸はミュージカルに対する新たな意欲を語った。
もともと石丸は東京芸術大学声楽科卒業後、劇団四季のオーディションに合格、「オペラ座の怪人」ラウル・シャニュイ子爵役でデビュー以来、2007年に退団するまでミュージカル・ストレイ・プレイの両分野で劇団のプリンスとして輝いていた。
なかでも印象に残る骨太な役柄は、四季昭和史ミュージカル「異国の丘」での日本貴族、九重秀隆。ニューヨークでは鮮やかにチャールストンからジャイブまで踊りまくり、日本の敗戦でシベリアに抑留されてはソ連の陰謀に頑として屈しない矜持有る日本男子の姿を示した。軽妙な役柄ではフレンチミュージカル「壁抜け男」のデュバル。生真面目な小役人が怪盗「ガルー・ガルー」となりモンマルトルを騒がす様子を小粋に演じた。
さて、この一年間、多くのファンの心配をよそにどこにおじゃったのか?
実は退団後、リフレッシュした後はニューヨークやソウルに渡り、現地の俳優たちの演技を見てミュージカルに対する新しい意欲を燃やしていたのだという。「劇団四季で17年間、走り続けて来た。今までにやったことを生かし、今までにやったことのない人たちと今までにやったことのない仕事を貪欲にやってみたい」と語った。
“New Brain”は1992年に「ファルセット」でトニー賞などを受賞した作詞・作曲家ウイリアム・フィンの実体験に基づいて脚本が書かれ、1998年にオフ・ブロードウエイで初演されたキッチュで意外性がある作品である。 ミュージカル復帰の第一作に“New Brain”を選んだ石丸は、ブロードウエイの公演は時期的に見逃したものの、CDを聞いて「やられた」とショックを受けたという。ニューヨークに住む売れない音楽家ゴードンは、ブロードウエイを夢見ながら生活のため意に沿わない子供番組の音楽を書かざるを得ないことがストレスとなり悩んでいる。ところが原因不明の頭痛と眩暈に襲われ命がけの脳手術を受けると見事に復活。再び人生の春を迎える。コミカルで軽妙なリズムと美しいメロディーを歌い上げるのに感じ入ったそうだ。
クリエ版の俳優は石丸の売れない音楽家ゴードンを取り巻くゲイの友人ロジャーに畠中洋、知的ホームレスの女にマルシア、看護師リチャードにパパイヤ鈴木など、確かに劇団四季では出会えなかったユニークな俳優陣だ。 劇団四季に大切に育てられ43歳で独立したプリンス石丸が、一匹狼派のテレビ・タレント相手にどうリーダーシップを発揮するのか期待している。
オフ・ブロードウエイや全米ツアーの演出を手掛けている若手演出家ダニエル・ゴールドスタインも制作発表の場で、シアタークリエについて質問され、「ビッグ・ミュージカルを手掛ける大舞台がありながらキャストと観客が一体になれる小劇場。ミュージカルにとって理想的な劇場」とコメントした。
それにしても創立以来55年、劇団四季のミュージカル俳優を育てる実力はすごい。石丸幹二以前には「レベッカ」の山口祐一郎、「デュエット」の保坂知寿、etc.
etc。シアタークリエで主役を務める俳優の半数は“女学校”の宝塚でなければ“共学”の劇団四季だ。(公演3月11日より4月29日まで)
2009.1.16 掲載
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