政治経済の閉塞感で息が詰まる日本の現状。人々を日頃のフラストレーションから解放し、2時間たっぷり楽しませ、元気を与えて帰すのはやはりミュージカルの舞台だ。歌舞伎は上演時間が長すぎるし、新劇の理屈はいまさら勘弁してほしいと思う。
劇団四季のマネージング・プレイヤー加藤敬二が構成・振付・演出それに出演までの総指揮をとる、劇団四季のソング&ダンス・シリーズ第4弾“55 Steps Song & Dance”には「ホント」生の感動が溢れている。
シンプルで巨大な額縁一つを舞台装置に、ボテ(旅用衣裳箱)、バランスボールなどを小道具に劇団四季の俳優たちが「これでもか!」と繰り出す歌と踊りは観客満足度100%だ。歌と踊りだけでもう満腹。「ミュージカルにセリフなんて要らないよね」とつい口がスベリそうだ。
ベテラン芝清道が“エビ—タ”からダイナミックに歌い上げれば、振付師加藤敬二は“美女と野獣”の「ビー・アワ・ゲスト」で男女のタップダンスをリードする。舞台全体に広がったタキシードにトップハットの軍団は、小粋だが時代を感じさせるフレッド・アステアでもなければ、軽快だがハリウッドの商業主義が気になるジーン・ケリーでもない。加藤敬二がオリジナルに育てたお洒落で筋肉質のマジック・ダンサーだ。彼らが55周年ガラ公演にふさわしいタップのリズムを繰り広げる。
一方“ユタと不思議な仲間たち”の主役ユタで一躍脚光と浴びたデビュー2年目の厂(がん)原時也は悪ガキ丸出しのフライ級のボクサーとして登場。ライオンキング”の「早く王様になりたい」の曲に合わせてバンタム級の相手とのボクシング試合。強烈なパンチの応酬でずっこけてステージを転げまわるかわいさで客席を沸かせる。「あれ、地震か?」と驚いたら隣席の上品なご婦人が時也の繰り出すパンチにエキサイトして身体全体でスイングしていたのだった。
“サウンド・オブ・ミュージック”「ドレミの歌」で観客を舞台に上げ、それぞれ「ド」「レ」「ミ」など一音だけの木琴を叩かせる顧客サービスぶりも55周年記念にふさわしいお祝儀。たった一音、それを間違える客がいたのも御愛嬌だ。
パワフルでダイナミックなダンスが続く中で”オペラ座の怪人“の「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」の静かな場面が印象に残った。斎藤美絵子のクリスチーナはロマンチック・チュチュ姿で可憐で優雅なバレエを披露し、ダイナミックな舞台が続いて超興奮状態の観客をすこし平常心に戻してくれる。中高年の観客の血圧のためにはありがたい。
貫禄の先輩と初々しい新人がチーム・アップして盛り上げる舞台には劇団四季の前途の明るさが見える。千秋楽までに是非もう一度観劇したいものだ。
(2009年1月31日まで 於 四季劇場[秋])
2008.10.17 掲載
|