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日生劇場 ベガーズオペラ

舞台全面に組み立てられたのは、18世紀イギリスはロンドンの貧民窟。住民はと言えば疫病人、スリ、強盗、娼婦、その上前を刎ねる故買屋夫婦など貴族紳士階級から虫けら同然の扱いをうけているが逞しく生き抜く人々である。ここに一人の詩人が迷い込み、教会の許可を得て彼等を役者に仕立て、当時上流社会で流行していたイタリアの歌劇を真似た一夜だけの俗謡オペラを上演する。

聖陽の野生がセクシー

主役のマクヒース(内野聖陽)の動物的野生を感じさせるしなやかな動き、跳躍の見事さがセクシーでカッコいい。盗賊グループの女たらしのボスで故買屋夫婦の娘ポリー(笹本玲奈)と結婚の約束をするが、実は監獄管理人の娘ルーシーを妊娠させている。故買屋夫婦(高島政宏・森公美子)は彼を死刑台に送ろうとブラックリストに載せて官憲に売り渡すが間一髪、ポリーが逃がしてしまう。ところがその隠れ家でも旧知の娼婦たちを集めて猥褻な馬鹿騒ぎをして、ついに相手の娼婦の密告でお縄に掛かりニュー・ゲート監獄へ。監獄で二人の恋人に鉢合わせされて慌てたり、嘆いたりする聖陽の姿が愛嬌があって憎めない。一方、ルーシーはポリーを毒殺しようとし、反対に殺されかかるなど女同士の闘争も熾烈だ。



  人生にはうらおもて
  紳士のフリをしていても
  娼婦や悪党と同じこと
  持ちつ持たれつ ばかしあい
  代議士は七光り
  坊主は丸もうけ
  おいしいのは 袖の下
  どう世の中変わろうとも
  政治家も泥棒も兄弟だ
  正直者こそ偽善者だ

故買屋ピーチャムとベガーたちの歌が強烈だ。

「ベガ—ズ・オペラ」(ジョン・ケア—ド演出・脚色)の原作ジョン・ゲイの作品は世界初のミュージカルであり(1728年作)、辛辣な社会風刺作品でもある。作者は盗人たちから品物を買い叩き、元の持ち主に高値で買い戻させる二重に悪辣な故買屋のブラックリストに、当時政権をほしいままにしていたウィッグ党の悪徳政治家ロバート・ウオルポールの綽名を忍ばせるなど反体制色が強く、この作品の続編ミュージカルは50年もの間、上演禁止となった。

通常ミュージカルと言えば劇場空間で数時間のハッピーな時間を過ごすもの。詐欺、追剥、売春。人間の欲望がこれでもかと暴露される貧民窟オペラが大入りとは、日本のミュージカル観客も大人になったものだと感心する。
もっとも住民と観客の大拍手で詩人はストーリーを変更。マクヒースは死刑台から無事生還して、カーテンコールに恭しく頭を下げるという嬉しいエンディングとなっている。(於 日生劇場 3月30日まで)

2008.3.22 掲載

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