幕が開くと。国境の町ザルツブルグの美しいケーニッヒ湖畔の夏季学習キャンプ場。先着したウイーンの女の子たちが後続のミュンヘンから来るグループを待ちながら一斉に踊りだす。曲を聴いただけで身体が自然に動き出す開放感にあふれたダンスだ。(音楽・いずみ/振付・加藤敬二)お転婆のルイーゼは早速いたずらを始めている。客席の子どもたちはルイーゼと先生のやり取りに早くも盛り上がってくる。
昔、ニューヨーク北部の湖水地域でガールスカウト夏季キャンプのディレクターをしていた筆者には懐かしくて感傷的になる風景だ。
そこに現れたミュンヘン組には、なんとルイーゼそっくりだがおしとやかなロッテ。「私に似ているなんて許せない」といじめにかかるが、ムテジウス校長先生の配慮で同室の2段ベッドの上下に。仲良く話し出すと誕生日も生まれた町もまったく同じ。両親の離婚で父娘、母娘と別れた双子姉妹だったのだ。
両親と姉妹一緒に暮らせるよう二人が立てた作戦はお互いに入れ替わってそれぞれウィーンの父とミュンヘンの母の元に帰宅すること。オーケストラの指揮者で金銭に無頓着なお父さんの代わりにロッテは家計簿を点検して「余ったお金はもらっておこう」とするお手伝いさんをやり込める。雑誌社で編集記者として働くお母さんに代わって家事をしていたロッテとは異なり、料理などしたことのないルイーゼはシチュウの代わりにメレンゲ・パイを作ってキチンを泡立てた卵の白身だらけにする。とんちんかんなやり取り毎に客席の子どもたちから笑いが弾ける。
また、お父さんの女友達イレーネに二人がいじめられる幻想の場面では小さい観客たちは両手をしっかり握りしめ、息を凝らしてロッテとルイーゼに無言で声援を送っている。
二人の機転と熱意でお父さんがイレーネと再婚しそうになった危機も乗り越え、ついにめでたく両親と双子姉妹の親子四人で暮らせることとなった。
10年ぶりに再会したパルフィー氏とダンスするケルナー夫人のスカートからチラつく脚がセクシーだ。子ども向けのミュージカルにも「壁抜け男」のヒロイン坂本理咲を投入するのが四季ファミリー・ミュージカルならではの贅沢だろう。
エーリヒ・ケストナー原作の『二人のロッテ』は1949年の発刊以来、今なお世界のベストセラーだが、四季のファミリー・ミュージカル(演出・浅利慶太)としても30年以上繰り返し上演されてきている。上演時間は休憩も含めてちょうど二時間。小学校低学年のこどもたちも最後まで椅子に座って緊張感を保てる適切な時間配分だ。
それでも劇場の出口を出るやいなや開放感からかキャンプ学校場面で見たステップで踊りだす女の子たちがいた。きっと上演中は舞台の女の子たちと心の中で一緒に踊っていたのだろう。
主人公は子どもだが、大人の感傷にも鑑賞にも堪えうる名作。次回のアンコール上演を期待している。
ちなみに、ガールスカウトのキャンプでチーフ・ディレクターが厳命したのは「キャンプ申込書に署名した親以外には子どもを絶対に渡さぬこと」。ムテジウス校長先生はロッテとルイーゼによる両親の復縁作戦を応援したが、欧米の夏期キャンプでは親権争いで子ども拉致事件が少なくないのももう一つの現実だ。(12月8日 四季自由劇場にて)
2007.12.19 掲載
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