お盆、精霊送り、蛍火。都会人も暑い夏になると改めて日本人の原点にご先祖返りするようだ。
芸能生活45周年を迎えた舟木一夫は、そんな観客に向けて新橋演舞場で顧客満足度満点の公演をする。「銭形平次 蛍火の女」(原作/野村胡堂、脚本/迫間 健、補綴・演出/金子良次)は悪党相手にお馴染み投げ銭、二挺十手の華麗な立ち回りで場内を沸かせ、はたまた娘の幸せを願って人を殺めた母親と生き別れの娘との対面の場をつくっては女性観客をしっぽり泣かせる。
殺人罪で小伝馬町の牢送りに決まった岡場所の女が自分が殺した親分の子分たちに刺されると、自宅に引き取ってその死に際に生き別れした娘と元の亭主に会わせるなんていくら大衆時代劇でも奉行所が許す筈もないでしょうと思うのだが、神田明神下と変貌した新橋演舞場の中では観客はそんな超法規的な場面も「それもアリ」と納得して、舟木平次の人情味ある計らいに大満足の顔。
舟木平次を取り巻くキャストとして、映画で初代平次を演じた長谷川一夫の娘・長谷川稀世が岡場所に身を沈めたお新を妖艶かつ切なく演じ、その娘であり、一夫の孫娘にあたる長谷川かずきがおっとりした町娘のおもんをみせる。平次の岡っ引き仲間、三輪の万七の子分清吉で観客をコミカルに楽しませるのは、テレビ時代劇の平次で一代を風靡した大川橋蔵の息子・丹羽貞仁だ。初代と二代目平次の血縁者に囲まれて、三代目の舟木一夫はいなせな立ち回りと貫禄たっぷりの座長芝居で人情話をリードする。
「蛍火の女」は大川橋蔵が昭和47年5月明治座で初演したもので、大川橋蔵夫人丹羽真理子さんは「歌舞伎でもないのに主人の型を継承してもらって嬉しい」と話す。舟木一夫の平次とのかかわりはテレビ・シリーズの主題歌を歌ったことから始まるが、人の縁を大事にし、先輩を立てる日本人らしい誠実な生き方がデビュー以来45年、ファンたちを惹きつけてやまないのであろう。
新橋演舞場への道筋には「神田明神」の幟がはためき、入り口には御神輿が鎮座、場内売店には神田名物の天野屋の昔菓子も揃えてある。舟木平次に賭ける演舞場スタッフの心意気だ。「おせんべい買ったの?」「甘酒を頂いてからね」観客たちは明神下の平次ワールドに浸り、しばし猛暑を忘れているようだ。
(二部はシアター・コンサート。8月27日迄)
2007.8.22 掲載
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