“かぶいた”衣装の足元はコバルト・ブルーのブーツで決め花道を駆け抜ける。巫女姿には銀色のブーツを光らせ狂ったように激しく踊る。フィナーレは舞台中央で阿国軍団を率いて新天地を目指して走れ・・・走れ!エネルギー溢れるダンスにチョコット哀愁の薬味を加えた木の実ナナは、正に「平成の阿国」だ。
ミュージカル「阿国」(皆川博子原作、鈴木聡脚本・作詞、栗山民也演出)が17年ぶりに東京に凱旋してきた。主演は1990年の初演以来の木の実ナナ。歌舞伎の創始者「出雲の阿国」の四條川原進出から、興行資本と若手に圧され、体制から抑圧されるまでの半生を上々颱風の歌に乗ってバサラに描く。
ストーリー
戦乱の世はようやく治まり豊臣から徳川に時代は移る頃、諸国から芸人たちが京の四條川原に集まってくる。出雲の阿国の一座は巫女姿でありながら猥褻な踊りで舞台を盛り上げ、川原を仕切る乞食の大将(上条恒彦)に目の敵にされる。ところが阿国は京の実力者である北野天神宮の宮司松梅院に色仕掛けで取り入って、川原の一等地での興業権を手に入れる。
競争相手だった蜘蛛舞のアクロバット・ダンサー、故郷を食い詰めて京に流れてきた親娘、遊女らを加えて増大した一座は「天下一」の評判を取る。ところが平和な京で未だに戦乱の世を夢見ている“かぶき者“猪熊少将(池畑慎之介)に出会うなり、阿国は恋に溺れてしまう。やがて四條川原には興業主をバックにした新興勢力が台頭し、阿国は自分の弟子に「二代目阿国」を名乗られた挙句に、「風紀を乱す」と公儀の手で川原から追放されてしまう。
実は松梅院が阿国を贔屓したのは、京の町衆を遊芸に熱中させ政事から目を逸らさせる体制側の陰謀だったのだ。それでも阿国は自分の踊るところが京(みやこ)なのだと一座を率いてエネルギッシュに駆け出すのである。何時の世にも体制から自由な”川原者“の心意気が伝わって気持ちいい。
初演から共演の二人、世を拗ねた公家役の池畑慎之介は官能的で、川原を取り仕切るパワフルな乞食の大将、上条恒彦も良い味を出している。
上々颱風の音楽
「阿国」の音楽を担当するのは紅龍と上々颱風。オフ・オフ・ブロードウエイからブロードウエイに出世した「レント」と同じやり口で、オーケストラ・ピットではなく堂々と舞台の上(舞台一面に広がる巨大な四條大橋の橋桁)に陣取り沖縄島歌、ロックからレゲエ、カンツォーネまでこなす。無国籍なサウンドが「平成阿国歌舞伎」にいかにも相応しい。
新橋演舞場での千秋楽の後は阿国歌舞伎発祥の地、四條川原の河畔に建つ京都南座での興行となる。文化の継承とニュー・トレンドに一家言を持つ京雀たちが改めてどう評価するのか楽しみだ。(新橋演舞場公演3月29日まで。南座公演4月3日より)
2007.3.16 掲載
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