赤や金色の装飾で樅の木がお洒落をする季節になると心が浮き立ってくる。
いたずら坊やフリッツの行進曲「僕のお馬」や華麗なコール・ド・バレエ「花のワルツ」を口ずさんでつい足元まで軽くなってくる。そう、「クルミ割り人形」は世界の冬の風物詩になっている。
日本でもこのシーズンになると一ダース以上のバレエ団が「クルミ」を上演するが、やはり本家本元はロシア。チャイコフスキーのバレエ・シンフォニーを楽しませてくれるムソルグスキー・ミハイロフスキー記念レニングラード(サンクト・ペテルスブルグ)国立バレエ団だろう。
オクサーナ・シェスタコワ演じるマーシャは一幕目は可憐な少女。いたずらっ子フリッツに名付け親ドロッセルマイヤーおじさん(アレクセイ・マラーホフ)からもらった「クルミ割り人形」を壊されるが、修理された人形が真夜中になってねずみの大群に襲われると、勇気を奮ってねずみの王様に燭台を投げつけて彼を救う。
救われたクルミ割り人形(アレクセイ・クズネッオフ)が元の気高い王子(ドミトリー・シャドルーヒン)に変身した二幕目、マーシャも優雅な女性に成長し王子にお伽の国に案内される。ロシア人形トレパックのダンス、アラビア人形のエキゾチックなベリー・ダンス、スペイン人形と中国人形のコミカルな振り付けも嬉しい。極め付きは花のワルツでシェスタコワ、シャドルーヒン他レニングラード・バレエ団総勢による華麗な舞台だ。
「クルミ割り人形」の楽しみは舞台を見るばかりではない。客席も祝祭気分にあふれている。ニューヨークのリンカーン・センター特別席にそのまま直行してもカッコイーようなトレンディーなカクテル・ドレスの女性とブランド物スーツ姿のエスコートの男性がいたり(本当はタキシードを着て欲しいのだが)、初めてのバレエ見物に瞳を輝かせる小学生がいる。小さいお客さんたちはスターバウム家のクリスマス・ツリーの背丈がするすると伸びて天井まで届くと「あーつ!」と思わず歓声を上げ、慌てて両手で口を押さえる。お母さんに「お行儀よく静かにね」言い聞かされてきたのだろう。
カップルでもよし、家族でもよし、今やこの観劇はバレエ愛好家の年末恒例行事となってきたようだ。
(2006年12月25日 オーチャード・ホールにて)
2006.12.30 掲載
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