小粋でチョッとエッチなフレンチ・ミュージカルが6年ぶりに東京に戻ってきた。
マルセル・エイメの原作に1964年公開の映画「シェルブールの雨傘」で世界の注目を集めたミシェル・ルグランの音楽。「壁抜け男」は全編が直ぐ口ずさみたくなるようなメロディーで紡がれている。「オペラ座の怪人」「キャッツ」などロンドン・ブロードウエイ発大型ミュージカルも良いが、四季のフランス物には独特の風合いが籠っているようだ。
適者適役
劇団四季のプリンス石丸幹二は、同僚に馬鹿にされながら熱心にタイプを打っている小役人デュティュルでも、「壁抜け」怪盗ガルーガルーになっても格好がいい。横暴な検事の夫に自由を奪われ自由奔放な怪盗にあこがれるイザベルの坂本理咲が、上品な高級官僚夫人から恋する奔放な女に変身してセクシー。これほどの妻なら世間から隔離しておきたいという悪徳検事の男心に同情できるほどだ。
ユトリロを目指しながら町の似顔絵画家に落ちぶれ、ひそかに慕うイザベルの似顔絵を描く哀愁を秘めた渋谷智也。モーパッサンの「脂肪の塊」の娼婦のように丸々した丹靖子は、昼は八百屋で野菜を売り夜は娼婦業に精を出す。この二人がモンマルトルの丘の芸術的でしかも猥雑な雰囲気を良く出している。
そう。役者12人、演奏3人(ピアノ、リード、パーカッション) 、合計15人の小品ミュージカルには適者適役、劇団四季の最高タレントが贅沢に詰まっている。フランスパンの一切れに同じ厚さのフォアグラのパテを盛り上げて豪快に口にするような、一見、庶民的だが、実は「四季向き」の贅沢な味だ。
ストーリー
第二次世界大戦の痛手からようやく回復しつつあるパリの郵政省で働く苦情処理係のデュティュルは、バラの手入れが趣味の地味な独身男で、同僚たちは彼を馬鹿にしている。
定時に仕事を終えて帰宅する先はモンマルトル。画家や娼婦が自由に暮らしている。ところがいつもの停電。電気がつくとドアを開けてもいないのに部屋の中に入っている。
気が狂ったのかと精神科医のもとに駆け込むが、アル中気味の医者は「壁を抜けるのに疲れたら飲め。但し女はダメ」と薬ビンを渡すだけ。
普通の人間、平凡な役人に戻りたいと願う彼も、軍人上がりの新任上司に罵倒されて怒り、壁から頭を突き出して部長を錯乱させ辞任に追い込む。
自信をつけた彼はパン屋の壁を抜けてパンを盗み、宝石店では高価な首飾りを盗んで義賊よろしく娼婦の首にかけてやる。壁抜け「怪盗ガルーガルー」として新聞紙上を騒がす彼の唯一手に入らないのが、近所に住む薄幸の人妻イザベルの心。彼女は検事の夫から買い物以外には外出さえも許されていない。
もっとデカイ事件を起こし彼女の注目を集めようと銀行の貸金庫を襲った彼は、駆けつけた警官に「自分が怪盗ガルーガルー」と名乗りマスコミを呼べと要求する。
さて、刑務所に入れられたデュティュルには援軍が現れる。怪盗ガルーガルーの正体を知った隣人たちと同僚が彼の釈放を求めてデモをかける。この騒ぎに乗じて鉄格子をすり抜けた彼はイザベルの許に駆けつけるが、怪盗に憧れていたイザベルもいざとなると尻込する。一計を案じた彼は、刑務所に戻り裁判を受けることにする。
町の人々やイザベルの傍聴する裁判所で、「壁抜け男」の死刑を求刑する検事にデュティュルは切り札を出して逆に検事を告発する。証拠は貸金庫で見つけた検事の秘密文書だ。
検事は法廷から逃げ出し、ついにデュティュルはイザベルと結ばれる。
ところが更に彼を求めるイザベルと反対に疲れ果てたデュティエルは、ついに精神科医から渡された薬を飲んでしまう。さて、彼はまた壁を抜けられるのか?
観客も合唱
初日では3回ものスタンディング・オベーションの後に観客も一緒になって主題歌を合唱した。「普通の人間 まじめな役人 平凡だけれど人生はそういうもの 趣味はささやかに 心温かく 派手さはないけど 僕の人生 人生は最高 人生は最高 人生は最高!」
(劇団四季 自由劇場にて公演中 11月19日まで)
2006.9.22 掲載
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