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The Producers

初演から丸5年、ニューヨークで定価$100の切符に$1000の闇値の付いた超人気ミュージカル、トニー賞12部門、史上最多受賞の「プロデューサーズ」が初演キャストを中心に映画になった。原作は元々1968年度アカデミー脚本賞を受賞したメル・ブルックスのコメディーで、これが2001年ミュージカルとなり又映画に戻った。映画はエライ。庶民の味方だ。ニューヨークに行かずとも東京にいて¥1000で楽しめる。(実は筆者は2001年の初演時、劇場前に並んで当日券をゲットし運よく最前列で見ることが出来た。プロデューサーが関係者のために押えて置いた切符を放出したらしい。)

丸儲けのビジネスモデル

ショー・ビズはベンチャー・ビジネス。「初日でコケればProducersは丸儲け!」これが落ちぶれ大物プロデューサー、マックス・ビアリストック(ネイサン・レイン)の会計監査に訪れた気弱な坊ちゃん会計士レオ・ブルーム(マシュー・ブロデリック)が発見したビジネスモデルだ。俳優もスタッフも即お払い箱。投資したエンジェルたちは出資金を諦めるし、税金も払わなくて済む!

2人は絶対ウケルことのない最低の脚本、演出家、俳優を求める。先ずヒットラー信奉者の脚本家フランツ・リープキン(ウイル・フェレル)が書いた「春の日のヒットラー」を見つける。ナチ青年団の歌をフランツと合唱し、ヒットラー総督の魂への忠誠を誓うというユダヤ系米人にとっては最大の屈辱に耐え、やっとフランツに契約書にサインさせる。フェレルの狂信的な眼の据わり方と、「ハイル・ヒットラー」と片翼を挙げる伝書鳩がキュートだ。

次は女装のハード・ゲイ演出家ロジャー・デ・ブリー(ゲイリー・ビーチ)の確保。「ショウはGay(明るく楽しい)でなければならない。ヒットラーものは暗くて真面目すぎる」と拒否するロジャーに「トニー賞がとれるかも」と口説く。女優志願で事務所に現れたスエーデン美人ウーラ(ユマ・サーマン)のセクシーな歌と踊りには「下半身をスタンディング・オベーション」させるが、ネイサン・レインの風格とマシュー・ブロデリックの坊ちゃんぶりに救われて卑猥にはならない。ウーラとレオのダンスは当時MGMミュージカル映画で全盛を極めたフレッド・アステア、ジンジャー・ロジャーズへのオマージュだ。

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さて、マックスは五番街の高級マンションに住む大金持ちの老女から次々と小切手をせしめ、制作費の200万ドルを調達する。エンジェルとなった50人ばかりのお婆さん軍団は、彼を先頭に五番街をセントラル・パークからシューバート劇場まで20ブロックを歩行補助器で嬉々として行進。ミュージカル「クレージー・フォー・ユー」の演出家スーザン・ストローマンは老婦人達に歩行器を使って派手に躍らせる。50年代後半に流行したテイルの長いキャデラックやオールズモビルが路上駐車しているのも楽しい。因みに、これはストローマンの初映画監督作品になる。(ロケ協力ニューヨーク市)

春の日のヒットラー

「ヒットラーとドイツにとっての春の日は、フランスとポーランドにとっては冬の日」 プリツルやソーセージの頭飾りをつけた俗悪な衣装でダンサーたちがヒットラー礼賛の歌を歌い踊りだすと、観客たちは激怒して席を立ち始める。マックスとレオは「してやったり」とほくそ笑むが、想定通りだったのはここまでだった。「台詞を全部覚えているのは君しかいない」と懇願されて、公演直前に足を折った主役のフリッツの代役になった演出家ロジャーが「ヒットラー万歳、私にバンザイ!」と腰をくねらし舞台で踊りだすと、「ヒットラー風刺劇だ」と観客は早合点して大喜び。次々と席に戻り、ナチのカギ十字の行進や戦車に笑い転げるのである。早番の朝刊はいずれも「ヒットラーをゲイ術化した」と絶賛の劇評ばかり。ショーは大成功!

崇拝するヒットラーをコケにされたと松葉杖のフリッツが事務所にピストルを持って殴りこみ、事務所は大混乱。駆けつけた警官が発見したのは「税務署用帳簿」と「非税務署用帳簿」。出資金は愛するマックスへのお祝儀くらいに思っている老婦人たちは傍聴席から応援するが、2人は5年の刑で泣く子も黙る「シンシン監獄」へ、、、、

最後に一言

「プロデューサーズ」はマスメディアのタブーであるナチ、ユダヤ系米人、ゲイをサカナにし、畏れ多くも演劇の大スポンサーであるお金持ちの老婦人たちまでカラカッタ豪華キャストで小粋なブロードウエイ好みの作品だ。これから映画を見る人に一言ご注意を。終わりのクレジットが流れても慌てて席を立たないこと。出演者たちの個性的なカーテンコールがあり、「バーンズ & ノブルズ書店かアマゾン・ドット・コムで文庫版を買って読みましょう」とアドルフ・ヒットラーの著書「我が闘争」のCMまでついてくるサービスぶりだ。(日劇1他全国東宝洋画系で上映中)

2006.4.25 掲載

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