久しぶりに見たファルーフ・ルジマトフの公演は実は「ルジマトフの全て」というタイトルより「ルジマトフと若い仲間たち」という方が相応しい舞台であった。
数年前まで監督泣かせのチョッと我儘なバレエ界の寵児が、若いバレエ・ダンサーを引き立て、これほど堂々としかも謙虚に観客にアピール出来る舞踏界のリーダーになったのかと感じ入った。
全部で13本の小品中、ファルーフ自身が出演したのは3本。「ドン・キホーテ」のグラン・パ・ド・ドウではキーロフ・バレエ団の後輩ビクトリア・テリヨーシキナを支え、「ススピロ・デ・エスパーニャ(スペインの溜息)ではフラメンコ・ギターにのってジプシー女のリカルド・カストロ・ロメロとサパテアードを響かせるロサリオ・カストロ・ロメロの三人で踊った。
これはスペインでロメロ姉弟のダンスに感動したファルフ自身が企画したフラメンコ・ダンスとロシア・バレエのコラボレーションということだが、酒場に現れた尾羽打ち枯らした中年男のロシアダンサーがジプシー女に愛想をつかされ、若いスペイン男には激しいサパデアードで追い立てられて舞台から消えてゆく話。「可哀そうなファルーフちゃん」
三番目の「アルビノーニのアダージオ」があったからこそ「ルジマトフの全て」というタイトルが正当化されたのかと思う。訓練で鍛え上げたバレエ・ダンサーとして全身の筋肉で観衆の視線を受け止め孤高で凄い切れ味のダンスを見せる。
アンコールでサッチモの「キス オブ ファイアー」にのって踊ったのはご愛嬌。黒いボータイをだらしなく首に巻きつけフレンチ・クオーターのジャズメン顔負けのふざけぶり。
フィナーレのカーテン・コールで小さな花束を抱えて舞台に駆け寄ってきた女の子たちの一人ひとりにファルーフはにこやかに挨拶していたが、こんな細やかな心遣いにも日本のファンたちは惹かれるのだろう。
2月のレニングラード国立バレエ団公演「バレエの美神」でファルフを見るのが楽しみになってきた。(11月6日 新宿文化センターにて)
2005.1.1 掲載
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