本作のワールドプレミアは、ベネチア映画祭でスタンディングオベーションを受ける大成功のうちに終了。
ロンドン映画祭では、残念ながらゲストなしで上映のみ。取材出来なかった代わりに、鑑賞直後の興奮冷めやらぬ各国の記者に囲まれ、質問される側に回る経験をした。
というわけで、今回は、ちょっと趣向を変えて、面白かった質問と、そこから考えたことを記してみたい。本作を違った角度からご紹介することになったらおなぐさみ。
Q:実話とは信じられない。
当時、大騒ぎになった埼玉愛犬家連続殺人事件を基に、映画では犬ではなく熱帯魚店の設定にされている。
調べたところ、思ったより多くの点が事実から採用されたことだった。夫婦2人で風呂場で遺体を細かく解体したことや、事件にセックスが絡んでくること、子どもが夫婦の店で働き出したことがきっかけで事件に巻き込まれた被害者など、ほんとうに信じられないような事件だったのだ。
Q:俳優たちが素晴らしい。日本では有名なのか。
かろうじて知っていたのは吹越満。
リアルタイムで見たのはロボコップ演芸で笑わせていた時期だけで、次に見たのがロンドンでの村上春樹作品の舞台だが。それでも、この人が実力派/個性派であることは充分わかる。
独特の人懐っこさとユーモアが、いきなりどす黒く豹変する店主役のでんでんも大絶賛されていたし、女優陣も印象深かったようだ。
どさくさに紛れ、神楽坂恵の胸は本物かという質問も。そう思うとお答えしたところ、どうして、わかると更なる追及。それほど、そこにこだわるか。
Q:日本の閉塞感を表しているのか。
他に、すごく面白いけど、文化の違いで、よくわからないという人も。
どんな映画でも多かれ少なかれ時代と文化は反映される。この映画の中に閉塞感を見たとしても、それがテーマかと問われると違う気がする。
例えばハーモニー・コリンがそうだが、見た者がテーマをつかみあぐねるような映画は、関心を監督に向かわせる。これは何?なぜ、作った?
その映画がすごければ、問うてみたくなるのもなおさら。日本人だというだけで質問してきた心理も、そういうことだったのだろう。
すごく面白いけど、よくわからないのは、文化の違いのせいではない。『愛のむきだし』に続きバイオレンスとセックスとキリスト教を題材にして、パワフルでつきぬけた、とてつもない映画を作ってしまった園監督が謎なのだ。
若い後妻(神楽坂)と娘(梶原)がうまくいかない中で悩みつつ、小さな熱帯魚店を経営する主人公(吹越)。万引きで捕まった娘を引き取りに行った先で、娘の更生に力を貸そうという男(でんでん)と知り合う。当初、面白いおじさん、大型熱帯魚店を営む景気のいい実業家と見えた男が現した本性は…。
監督 園子温
出演 吹越満、でんでん、神楽坂恵、黒坂あすか、梶原ひかり ほか
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2011.1.29 掲載
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