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ロンドン発 俳優・映画情報

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日本だけじゃなかった酷い裁判『Let Him Have It』

久々の日本未公開シリーズとなる『Let Him Have It』、新作ではないが今回ご紹介するのは、この映画の基となった事件と『アムネスティによる「健次を救え!」全面広告』の件とに共通点があるから。「健次を救え!」はこちらで担当しているもう1つのコーナー「イギリスなう!」に掲載中(2016年6月現在)。

この「ロンドン発俳優・映画情報」の前回『さざなみ』とのつながりもある。『さざなみ』で銀熊賞受賞のトム・コートネイが『Let Him Have It』では主人公の父親役で好演している。

さて本題に戻って、「健次を救え!」の件と共通するのは判決の理不尽さ。両件とも本来であれば罰せられるはずの主犯が免れてしまったため、主犯の分まで共犯にかぶせられたように思える。その共犯が知的障害者なのも同じだ。

映画の主人公デレク・ベントレーは警官殺害の共犯になった。夜間に侵入した倉庫で、かけつけた警官に向け発砲したのは銃を持っていたもう1人の侵入者クリストファー・クレイグだが、クリストファーは16歳でまだ子供、デレクは19歳で大人とみなされた。

裁判で争点となった言葉が、映画タイトルともなっている「Let Him Have It」。同僚が撃たれた現場に居合わせた警官が、デレクがクリストファーに「一発お見舞いしてやれ」、撃てという意味で使ったと証言したもの。デレク、クリストファーともそんな言葉は発せられなかったとしている。もし発していたとしても、「銃を渡せ」の意味にもとれる言葉だ。

結局、陪審員はデレクがクリストファー発砲を励ましたという意見に傾いたようで、未成年のクリストファーは「女王陛下のお許しがあるまで」と呼ばれる、様子を見ながらの投獄(結果的に10年となった)で、デレクには死刑判決が下った。

一方、「健次を救え!」の件は連続殺人事件で、主犯の兄が自殺後、警察により自白に署名させられ(弁護士の主張)、健次に死刑判決が下るも、まだ執行されていないため、救出キャンペーンの余地もある。だが、デレクは家族による訴えもむなしく、あっという間に死刑執行されてしまう。事件が起こったのは1952年11月2日、執行は翌年の1月28日だった。

その後も両親、両親亡き後は姉が引き継いで、裁判の間違いを訴え続けた。姉も亡くなった1997年の翌年、事件からは46年目となる1998年、上訴裁判所が、当時の裁判官が偏り、陪審員をミスリードしたとして、ようやく死刑判決を破棄した。

1991年公開のこの映画も、姉の訴えを広く知らしめる助けとなったのかもしれない。センチメンタルに流れず抑制を効かせたことで起こったことの酷さが際立つ映画だ。


『Let Him Have It』日本未公開 ■ ■ ■

戦時中、爆撃で瓦解した建物の下敷きになり、頭部を損傷したデレク(エクルストン)は、時々癲癇の発作が出る、知的、精神的にも発達の遅れた青年となった。学校にまで銃を持ちこむ不良少年クリストファー(レイノルズ)は、町でみかける年上で体格もよいデレクに目をつけ…

 監督 ピーター・メダック
 出演 クリストファー・エクルストン、ポール・レイノルズ ほか

2016.7.12 掲載

著者プロフィール
山口 ゆかり(やまぐち ゆかり) : ロンドン在住ライター、コラムニスト。映画はニュース記事やインタビュー記事、関連コラムなどを書いています。
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