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セザール賞7冠『セラフィーヌの庭』

世の中にはこれまで知らなかったすごい人がまだまだいる、と教えてくれる映画がある。
  最近でも、『ミルク』でハーヴィー・ミルク、『くたばれ!ユナイテッド-サッカー万歳!-』でブライアン・クロフを知った。両者とも、それまで知らずにいたことが惜しまれるような人物で、ドキュメンタリーも見たら、これがまた面白かった。それぞれの魅力を伝え、とっかかりとなってくれたショーン・ペン、マイケル・シーンよ、ありがとう。

『セラフィーヌの庭』では、セラフィーヌ・ルイを伝えてくれたヨランド・モローとともに、モローがピッタリはまるキャラクターだったセラフィーヌにも感謝だ。これを見なかったら、うっかりモローを見逃すところだった。
  ベルギー出身のモローは、フランスのテレビなどでも活躍しているようだが、私は不勉強で知らなかった。出演作をたどったら『アメリ』を見ていたのだが、強烈だった主役のオドレイ・トトゥはしっかり覚えていても、ほかの人は思い出せない…
  モローはセラフィーヌでフランスのアカデミー賞にあたるセザール賞はじめ女優賞多数を獲得。お目にかかれたのは、主人公のジェラール・ドバルデューの妻役を務めた『マンモス』(原題)の会見時だったが、名優ドバルデューと同じくらい大きな拍手で迎えられたのが印象的だった。
  愛嬌のあるおばちゃんというふうな親しみやすい雰囲気のモロー、誰かに似ていると思ったら、先頃亡くなった日本の名脇役、園佳也子さんだった。国籍を問わない名優顔?

セラフィーヌはフランスの女流画家だ。うねるように草木を描いた画風、恵まれなかった実生活でも、ゴッホを思わせる。
  天才とは、何かに秀でているだけでなく、それにどこまでも打ち込める能力のことでもあると言われるが、それでいくとセラフィーヌはまさに天才だった。
  モローは、冒頭シーンの恍惚となって賛美歌を歌う顔だけで、セラフィーヌの尋常ではない熱情をわからせる。画材を買うのもままならない貧しさで、野や森で色の出る草花を収集、文字通り自然が友で木に語りかけたりもし、いったん絵を描き始めると寝食を忘れるほど没頭する。あまりのひたむきさは危うさも感じさせ、最後の破綻まで予感させる。

モローの女優賞のほかにも作品賞など7冠とセザール賞を総なめした映画のおかげで、作品にもスポットがあたり、パリでのセラフィーヌ・ルイ展なども盛況だったようだ。めでたし、めでたし。というふうに、すっかりセラフィーヌファンになっている。
  成功も手に入れた天才達、たとえば、とっかえひっかえ若い女性を恋人にしたピカソや、やることなすこと個性的だったダリなども痛快だが、やはり不遇の生涯を送った天才に肩入れしたくなるのが人情というものか。

『セラフィーヌの庭』8月7日公開 ■ ■ ■

変わり者の家政婦セラフィーヌ(モロー)は、貧しい暮らしながらも、絵を描いていた。そんなセラフィーヌが掃除に通うことになったのが、ドイツ人の画商ヴィルヘルム・ウーデ(トゥクール)の住まいだった。ウーデは、偶然にセラフィーヌの絵を見て、その才能に驚く。アンリ・ルソーを見出し、ピカソとも親交のあったウーデの支援を得られたセラフィーヌだったが…。

 監督 マルタン・プロヴォスト
 出演 ヨランド・モロー、ウルリッヒ・トゥクール、アンヌ・べネント ほか

2010.8.6 掲載

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