「ほんとうにアカデミー賞ものだったのは、ヘレン・ミレンよりトニー・ブレア役をやったマイケル・シーンのほう」と『クイーン』を評価する批評家もいる。舞台でも活躍しているシーンの演技力には定評がある。
だが、私がそのすごさに気づいたのは、役柄ではないご本人を見てから。可愛い!役とはイメージ全然違う!あれは演技だったのか…というわけ。
それまでに見ていたのは、テレビドラマ『ディール』と『クイーン』の両方でのブレア元首相役と、今回のフロスト役だけだが、両者とも滑舌のいいスムーズなしゃべりにニカッという営業スマイルで、世渡り上手のやり手、バリバリの壮年といったイメージで、あまり可愛げはない。
私に限らず、役柄でしかシーンを知らないような人は、本人を見た時、たいていそのイメージのギャップに驚くようだ。ブレア、フロスト、喜劇役者ケネス・ウィリアムズにサッカー選手/監督のブライアン・クロフと、これまで、それぞれに強烈なキャラクターの実在の人物になりきってきたシーンだが、素に近い役をやることについては「カメラの前で素でいるのは恐いよ。仮面をかぶったほうが楽」だそう。
本質を映し出すこともあるカメラの恐さを、せめてシーンの半分でもニクソンが心得ていたら…
そのニクソンを演じるフランク・ランジェラもいい。ふてぶてしい憎まれ役だが、どちらかというとこちらのほうに可愛げというか、可笑し味というか、そういうものを含ませて描かれているのがいい。とんでもない冗談や理屈で、周りを困惑させる様子など笑える場面もけっこうある。
現実に起こったことを映画にしたものがあまりに面白いと、どこまで本当かが気になってくるが、現在でもキャスターとして活躍するフロストによると、細かな脚色はあるが、大筋は本当ということだ。
例えば、ニクソンがフロストの履いている靴についてコメントして、後でフロストがニクソンに靴をプレゼントする場面があるが、コメントしたのはその通りでも、プレゼントはしなかったのだそう。前後を見るとシニカルな笑いを誘う場面になっていて、「あれはいい。僕もあの時、靴をあげればよかったよ」と当のフロストが言うくらいだから、脚色はあっても、その方向は正解ということだろう。
余談だが、シーンの父親は、ジャック・ニコルソンがバッドマンでジョーカー役をやった時に、みなに似ていると言われたことがきっかけで、そっくりさんとして世界中に行くようになったのだそう。そういえばシーンのニカッも、ちょっとニコルソン似かも。
英テレビの人気プレゼンター、デヴィッド・フロストが番組に引っ張り出そうと考えたのは、ウォーターゲート事件のニクソン元大統領だった!罪を認めさせようというフロスト陣営、人気回復を目論むニクソン陣営の息詰まる攻防のうちに収録された番組の結果は…。
監督 ロン・ハワード
出演 マイケル・シーン、フランク・ランジェラ、ケヴィン・ベーコン 他
|
2009.3.27 掲載
|