新人監督とは言え、今38歳。哲学から映画の勉強に転向し、最初はコマーシャルフィルムを撮っていたらしい。満を持しての長編映画監督デビューというわけだ。
そりゃそうだわな、あのデヴィッド・ボウイの息子がデビュー!とエクスクラメーションマーク付きの大注目は必至。失敗したら、かなりイタい。結果は大成功、映画賞様々をさらった。
月での孤独な任務に就く男を描いた本作は、ほとんどサム・ロックウェルの一人芝居。
『グリーンマイル』の邪悪な囚人から『銀河ヒッチハイク・ガイド』のとんでもない宇宙人まで、脇にいてさえ目を引くロックウェルが、寂しさ、不安、悲しさ、怒り…様々な感情を見せる独壇場が続く。
ちょっと脱線。ロックウェルは、役の幅広さとか、普通っぽさを上手く出せるとことか、パディ・コンシダイン(第13回でご紹介)とも似たタイプの俳優だが、そのコンシダインとのコンビで御馴染みのシェーン・メドウス監督がロックウェルと仕事の計画を進めている。実現したら是非ご紹介したい。
話を戻すと、本作は美しい宇宙の映像を挟みつつスリリングに展開するSFだが、心理劇的な要素も強い。あり得ない出来事の連続が、主人公の頭の中で起こっていることか、裏に何か隠された事実があるのか、真相がわかった後まで、結末が見えず、最後までドキドキ。
孤独な時間を3年過ごすということが、伏線にもなっているのだが、宇宙ときて孤独とくれば、ボウイが地球に囚われた孤独な宇宙人を演じた『地球に落ちてきた男』が思い浮かぶ。
脚本も書いたジョーンズ監督、それをねらったわけではないらしいが、無意識に似ちゃったところを日本では逃さず、ムーン(原題)が『月に囚われた男』。でも、この2作、最後が悲しいのはいっしょでも、味わいはかなり違っている。ホントに人間じゃないみたいだった当時のボウイの麗しさも手伝ってロマンチックな感じもあった『地球に〜』だが、本作には、もっと殺伐とした怖さがある。
お見事なデビュー作、これからも要注目のジョーンズ監督、早くも次作『ソース・コード』(原題)の撮影に入っているらしい。
『ドニー・ダーコ』、『ブロークバック・マウンテン』など、出演作ごとに実力の程を見せ付けてくれる若手演技派ジェイク・ギレンホールの主演に、こちらも前々回ご紹介の『マイレージ、マイライフ』でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたヴェラ・ファーミガなども出演というから、楽しみ。
月での採掘作業をロボット(声:スペイシー)だけを相手に孤独のうちにこなしてきたサム(ロックウェル)、妻(マケリゴット)から送られてくる映像をなぐさめに過ごした3年の契約期間がもうすぐ終了というところで、いるはずのない女の子を見る。幻覚かとも思ううちに、作業中、事故にあい、昏睡から覚めたサムの周りで、さらに奇妙なことが起き始め…
監督 ダンカン・ジョーンズ
出演 サム・ロックウェル、ケヴィン・スペイシー(声)、ドミニク・マケリゴット ほか
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2010.4.8 掲載
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