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アメリカのシビアなリストラ事情『マイレージ、マイライフ』

昨年のロンドン映画祭、幕開けがジョージ・クルーニー祭りだった。
  何しろオープニングがクルーニー声の主演の『ファンタスティック・ミスター・フォックス』(原題)のワールドプレミアで、その翌日がクルーニー主演『ザ・メン・フー・ステア・アット・ゴーツ』(原題)のイギリスプレミア。
  結果、2日連続で会見もするわ、ガールフレンドを同伴してレッドカーペットに登場もするわで、そのゴージャスなお姿がイギリス中のメディアに出まくった。

そして、やはりイギリスプレミアだった本作はクルーニー主演3作目。それだけで、いかに売れっ子かわかろうというものだが、本作の会見時にクルーニーの姿はなし…
  クルーニーが演じた本作の主人公は、旅から旅への生活を楽しむ独身貴族。ハリウッドで最も熱い視線を浴びる独身男と呼ばれて久しいクルーニーとだぶるだけに残念。
  まっ、いっか。本映画祭は10月に開催されたのだが、その後、2010年から会見に出席しない宣言をしたそうだから、先の2回の会見でお姿を拝めたことをラッキーとしておこう。

クルーニー演じるリストラ宣告請負会社の敏腕社員を主役に、コミカルながら人生の辛さも織り込みつつ展開する本作、バランスの良さはさすが『JUNO/ジュノ』のジェイソン・ライトマン監督だ。クルーニーを主演にすえたのも、クビを言い渡すのが仕事という主人公のため、相当チャーミングでなければ観客からの共感を得られないと考えたからだそう。
  だが、そのライトマン監督でも、読みきれなかったことがあった。
  脚本を書いた7年前には、アメリカの経済事情が今ほどひどい状況ではなく、リストラを言い渡される人の反応部分もコメディタッチにしていた。それが、撮影時は世界不況の真っ只中。そのシーンを変更、実際にリストラされた人を募って、その時に言ったこと、言いたかったことをぶちまけてもらうドキュメンタリー部分を混ぜ込んだ。
  なるほど、バラエティに富んだ人々がいろいろな反応を見せているわけだ。俳優陣の好演に、本物が入り混じる興味深いシーンとなっている。
  メインキャラクターの両女優アナ・ケンドリックスとヴェラ・ファーミガに、監督の3人が参加した会見では、若いアナまでがアメリカのリストラ状況を「笑い事じゃないわ」と眉をくもらせていたほどだから、このドキュメンタリー部分の人々に代表されるようなリストラ体験者の声は、しっかり響いているようだ。

ところで、本作に限らず、映画では「おまえはクビだ!」と言われたその場で荷物をまとめて仕事場を出て行く人というシーンをけっこう見る。
  ここイギリスでは雇用期間に応じて予告期間も最長12週間まで必要で、ドイツ、フランスなども同様だが、アメリカでは予告期間を定めた法律は無し!
  慣例として2週間前までには予告することが多いらしいが、いきなり、クビだ!も有り得るわけだ。
  映画だからというわけじゃ、なかったのね…

*次回は、4月3日公開の『カケラ』をご紹介予定。リアルな女性像を新鮮に打ち出し、海外で高い評価を得ている本作、女性の共感を呼ぶのはもちろん、男性には女性心理のお勉強にもなりそう。
  クイズを思いつきました。今回のジェイソン・ライトマン監督と次回『カケラ』の安藤モモ子監督の共通点は何でしょう?(ヒント:お二方ともメディアで紹介される際に使われたりもする言葉)答えは次回で。

『マイレージ、マイライフ』3月20日公開 ■ ■ ■

リストラ宣告請負会社の敏腕社員である主人公(ジョージ・クルーニー)は、エリート社員として期待をかけられながら、リストラを言い渡される人の反応に動揺することになる新人(アナ・ケンドリックス)の指導担当となる。一方、旅から旅への仕事中に出会った女性(ヴェラ・ファーミガ)と逢瀬を重ねるうちに、独身貴族生活を謳歌していた男らしからぬ行動に出るのだが…
  それぞれアカデミー賞主演男優賞、助演女優賞にノミネートされた上記3俳優はじめ芸達者な俳優陣の演技も堪能できるほか、逆に演技ではない "本物"(本文参照)の人々もいい。

 監督 ジェイソン・ライトマン
 出演 ジョージ・クルーニー、アナ・ケンドリックス、ヴェラ・ファーミガ、J.K.シモンズ ほか

2010.3.15 掲載

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