WEB連載

出版物の案内

会社案内

幸福になれる女性『ターナー、光に愛を求めて』

マイク・リー監督映画を観ると、身につまされることが多いです。『家族の庭』(第62回)など、歳だけとって何の実りもない主人公の姿に、我が身を重ねションボリ。

ヴィクトリア期の大画家ターナーを描いた『ターナー、光に愛を求めて』なら、そんなことはあるまいと思った私は甘かった。ガッツリ身につまされてしまいました。

誰にも負けない絵の技術、そして情熱を持ち、最高峰まで登りつめた画家ながら、ターナーはかなり変人。リー監督は、そのターナーの多面性を見せるのに、やんごとなき方から最下層の女まで、たくさんの女性を登場させ、最後も2人の女性の対比で締めています。

2人ともターナーを愛した女性ですが、一方の家政婦ハンナの姿はあまりにも悲しく、もう一方のブース夫人はターナーを亡くした中にあっても、まだ明るさがある。ハンナが、お客様の前でハエをバタバタ追ったりするがさつな女性として描かれるのに対し、ブース夫人は、ふくよかな風貌からして、柔らか味、暖か味を感じさせます。最初は宿の女将と宿泊客という関係だったターナーにも、自然な愛情を持って接することができる。そういう女性は、やはり幸せになれるのだなあ。ハンナの方に我が身を重ね、またションボリ。それでも、映画の中に、シンパシーを感じられるキャラクターが出てくるのはうれしく、リー監督作品は好きです。

そのリー監督に、プログラムに載せるインタビューができました。ご覧になる機会がありましたら、プログラムも是非。インタビュー中にこの映画製作のきっかけとして登場する『トプシー・ターヴィー』が、日本では観られない状況なのが残念です。たくさんの賞を受賞している1999年の映画ですが、劇場公開はされず、テレビで放映されたきり、いまだDVDも出ていません。喜歌劇『ミカド』を作ったギルバート&サリヴァンが主人公で、日本のことも出てくるのに、公開されていないことを、リー監督はずっと気に病んでいらっしゃるようです。なんとかならないかなあ。


『ターナー、光に愛を求めて』6月20日公開 ■ ■ ■

画材を調達するなど助手的な役割を務める父(ジェッソン)に、自分に従順な家政婦ハンナ(アトキンソン)とで暮らすターナー(スポール)は、絵を描くこと以外に煩わされる気はないようだ。たとえそれが我が子であろうとも…。

 監督 マイク・リー
 出演 ティモシー・スポール、ポール・ジェッソン、ドロシー・アトキンソン ほか

2015.6.19 掲載

著者プロフィールバックナンバー
上に戻る