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ぼけた親と子『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』『家路』

前回から今回までの間にベルリン国際映画祭があった。そこで見た『家路』が、前回予告『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』と1日違いの公開、ともにぼけた親と息子の話ということで、今回は急遽2本立て。

『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』は父と息子の旅路を描くもの。送られてきた「100万ドルがあたりました!」という宣伝文句を信じ、100万ドルを受け取りに行くと言って聞かない父親を納得させるため、息子が差出人のいるネブラスカ州リンカーンまで同行する。

 監督は『ファミリー・ツリー』(第70回でご紹介)でも、笑いの中にほのぼのと家族愛を見せたアレクサンダー・ぺイン。そちらではハワイの風土も見所だったが、今回はネブラスカの父母が昔住んだ町を通る場面が見所。父母にも若い日はあったのだ。今はふっくら丸いおばあさんの母親が意外にもてていたり、頑固親父の父親がお人よしで利用されるばかりだったり。父親が大金持ちになったと勘違いし、本性を現す町の人々に対し、もちろん息子は父親の側に立つ。郷愁を誘う白黒映像も良い。

『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』が笑いつつジーンとする映画なら、『家路』はズシリとくる映画。3.11の原発事故で立ち入り禁止になった区域を舞台にしている。ぼけた母は、昔と変わらず、その地で暮らそうとする。立ち入り禁止になってから戻った息子は、危険を知りつつ、そこで生きようとする。

久保田直監督は、世界の8人のドキュメンタリストに選出されたこともあるドキュメンタリー作家。福島を何年経っても見られるような映画にするため、あえてドキュメンタリーではなく、普遍性のある家族をテーマとしてドラマで描いたという。
  家族との音信を絶っているような人が「誰もいないなら帰ろうか」という話を作れないかというのが主人公のキャラクターになった。久保田監督は、東北にも多い出稼ぎする人々、そして家族との音信を絶った人、おいそれとは帰れなくなってしまった人を思った。

それが目的ではないにしろ、ぼけた親の夢の世界を生きることともなる、涙が出るほど良い息子たち。
  ともに良い息子を持って幸せな親たちだが、息子当人の幸せを思った時に、暖かい気持ちのまま見終えられる『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』、息子がそうなるに至った道筋、その決心が悲しい『家路』だ。


『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』 2月28日公開 ■ ■ ■

警察の連絡を受け、デイヴィッド(フォーテ)は、さまよい歩いていた父親(ダーン)の身柄を引き受ける。当たった100万ドルを受け取りにネブラスカに行くと言う父親。それは、よくある宣伝広告だった。だが、信じ込み、何度も徒歩での旅を決行しようとする父親を車に乗せ、旅立つデイヴィッドは…

 監督 アレクサンダー・ペイン
 出演 ブルース・ダーン、ウィル・フォーテ ほか


『家路』 3月1日公開 ■ ■ ■

3.11の原発事故で家や田畑に戻れない総一(内野)は、血のつながりはない後妻の母(田中)と、妻(安藤)に娘で仮設住宅で暮らす。母の実子である弟(松山)は、ずっと昔に村を出たきり、音信も絶えている。先のことも考えられずにいる中、その弟が家に戻っていると警察に知らされ…

 監督 久保田直
 出演 松山ケンイチ、内野聖陽、田中裕子、安藤サクラ ほか

2014.2.28 掲載

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