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ハワイアンな家族再生物語『ファミリー・ツリー』

尊厳死に、環境保全まで盛り込みながら、肩肘張らず面白く見せる。
  アレクサンダー・ペイン監督は、初期の監督・脚本映画『Citizen Ruth』でも女性の自立、妊娠中絶をコミカルな味付けで見せている。社会的な問題を笑いで包むのが上手い。
  『ファミリー・ツリー』では、悲劇と喜劇のさじ加減も絶妙。脚本も手がけることが多いペイン監督は、数人で組み脚本を書いたこの映画でアカデミー脚色賞を獲得している。

主演のジョージ・クルーニーもゴールデングローブ主演男優賞受賞。毎年、複数の出演映画が封切られる売れっ子だが、昨年度はこの映画でのコミカルな演技が光った。やっぱりクルーニーはコメディがいい。『オー・ブラザー!』『バーン・アフター・リーディング』とクルーニーにおバカな役しかやらせないコーエン兄弟は正しい。
  クルーニーにひけをとらない演技を見せているのが娘役のシャイリーン・ウッドリー。これが長編映画デビューとなる現在20歳の若い女優さんだが、迷走しそうになる父親に的確な助言も与える長女を好演している。

舞台となったハワイも肩肘張らない面白さに一役買っている。何しろ、主要登場人物が、みんな軽装。同じ重大局面に立たされた人でも、寒空の下で重いコート着てるのと、輝く太陽の下で短パンでいるのとでは、だいぶ印象が違う。
  アスリートでもない限り、短パン姿のおじさんには、そこはかとない滑稽感が漂う。この映画のクルーニーも例外ではない。事故で生死の境をさまよう妻、その妻に不倫相手がいたという事実、先祖から引き継いできた土地を売るべきか否か、という苦悩を抱えつつ短パン。これが背広姿なら、面白さも半減だ。

一家の主婦の悲劇から始まるストーリーだが、関係を再構築していく父と娘たちの様子が心温まる。生命力を感じさせるハワイの風景の明るさが、家族の姿とシンクロしていく。
  灰色の空で有名なイギリスでは、ハワイまでは行かずとも、同様に明るい太陽と青い海があるスペインなどに移住して老後を過ごす人も多い。この映画を見ていると、そういう老後もいいかな、という気になる。

『ファミリー・ツリー』5月18日公開 ■ ■ ■

妻が事故にあい、娘2人と向き合うことになったハワイに住む弁護士(クルーニー)。医師から妻の意識が戻ることはないという宣告を受ける。妻は延命措置を望まないというリビング・ウィルも残していた。娘からは妻に恋人がいたことを知らされ…。

 監督 アレクサンダー・ペイン
 出演 ジョージ・クルーニー、シャイリーン・ウッドリー ほか

2012.5.21 掲載

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