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男のドラマ、女のドラマ『ラッシュ/プライドと友情』

その長くない生涯に5000人の女性と寝たというプレイボーイのジェームス・ハントが動物的な勘で走る天才レーサーなら、一方のニキ・ラウダは車の微細な調子の違いまでわかる別のタイプの天才レーサーだ。
  ルックスも、長めの金髪に人懐っこい笑みをたたえたリラックスしたイギリス人ジェームスに、小柄で歯が出ていたためネズミというあだ名で、車の整備さえ自ら指揮して完璧を期すオーストリア人ニキと、何から何まで対照的な2人。

これが映画上のキャラクターではなく、実際にその通りだった。今とは比べ物にならないほどラフな時代だった70年代の、F1パーティー映像もあるドキュメンタリーを見た。女性に囲まれ座の中心にいるジェームスは、まさにスター。走りではジェームスより良い成績だったりするスターレーサーのはずのニキは、端っこで目立たない人になっている。

その2人が、逆転に継ぐ逆転で、どちらが勝つか全くわからないまま、日本の富士スピードウェイでの最終決戦を迎えた1976年のF1を再現したのが『ラッシュ/プライドと友情』だ。
  実話を深みのあるドラマにして見せる腕前は、アカデミー賞監督賞獲得『ビューティフル・マインド』や『フロスト×ニクソン』(第5回でご紹介)で証明済みのロン・ハワード監督が、またやってくれた。

2人のレーサー同様、それぞれの妻も対照的だ。つらい時こそ支えあうラウダ夫妻と、お互いの華やかな部分だけでつながっているようなハント夫妻。大迫力のレースシーンと同じかそれ以上に、人間ドラマで見せる。対極のようなキャラクターたちに彩られたドラマは、翻って自分の生き方も考えさせる。

必ずしも、男性がジェームスやニキに、女性がその妻たちによって、考えるとは限らない。
  ニキの妻役アレクサンドラ・マリア・ララの心に残ったのは、ハネムーン中のニキと妻のシーンという。幸せの絶頂にいるニキは、失いたくないものができたことを恐れる。それが走りに影響するのではという不安からだ。

アレクサンドラは、インタビュー時、お腹が目立ち始めた妊婦さんだった。質問に対して、それは夫と一緒に見たわ、そこには夫と一緒に行ったの、という具合に何度もマイ・ハズバンドを甘い口調で言うのが新婚らしく微笑ましかった。幸せの絶頂で不安になるニキの気持ちが良くわかるのだろう。
  ちなみに、夫は『コントロール』で共演したサム・ライリー。ライリーこの幸せ者め!と言いたくなるような甘やかさで、気丈なニキの妻を演じていただけに、そのギャップに驚いた。アレクサンドラのみならず、それぞれが実物と良く似せている。

さて、ライリーが幸せ者かどうかはともかく、意外なことに離婚後も良き父親だったというが、まだ息子たちが小さい頃に逝ってしまったジェームス、ネズミと呼ばれていたとはいえ、けっこうハンサムだった顔をやけどで失った後の活躍で、ますます尊敬を集めるヒーローとなっていったニキ。人の幸せについても考えてしまう。

『ラッシュ/プライドと友情』 2月7日公開 ■ ■ ■

F3時代からお互いをライバル視していたジェームス・ハント(ヘムズワース)とニキ・ラウダ(ブリュール)。それぞれにF1レーサーへと歩を進め、迎えた1976年の大会は、ニキのリードで始った。大雨となったドイツで安全性を危ぶんだニキはボイコットを訴えるが、ジェームスが中心となってレーサーたちの意見は決行へと傾いてしまう。そのレースでニキの車はフェンスに衝突し、あっという間に大火に包まれ…

 監督 ロン・ハワード
 出演 クリス・ヘムズワース、ダニエル・ブリュール ほか

2014.2.4 掲載

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