何時でもオオッと目を引くパワーがある美人。美人女優、美人市議、どんな職業でも有り難味を増すパワーもありそう。中でも最強なのが美人女医ではなかろうか。才色兼備プラス病める人を助ける仕事柄、人徳や優しさまで期待できそう。お金持ちそうだし。
この映画も、美人女医パワーで、つかみはOK。
新しい赴任先の病院の前のベンチに、いつも始業時間前に来て一服、それから病院に入る女医バーバラ。その姿が、病院の窓から見つめる医師アンドレの目をレンズとして捕らえられる冒頭は、それだけで見るものをガッチリつかむ。バーバラのシャープな美しさと、アンドレの柔らかな物腰が対照的だ。どうしたって、2人の間に何かが始まることを期待してしまう。恋愛もの?
だが、なかなかロマンスは始まらない。バーバラは、誰とも打ち解けない。意識的に距離を置いているようだ。何か秘密がありそう。スパイもの?どう転んでいくかわからないまま、なおも引きつけられて見ていくと、東と西に分断されたドイツが背景にある物語だと気づく。
次第にバーバラが置かれた立場と、決断が迫られている状況がわかってくる。片方を選べば、片方を捨てることになる、後戻りのできない決断だ。
東と西、過去と未来、医師としての職務、女性としての幸せ、幾重にも引き裂かれるバーバラが、最終局面でとる行動が見事。自分を頼る少女を救うための行動が、自動的に自分の道をも決めてしまう。
秘密警察が跋扈する80年代のドイツの暗い雰囲気を描きつつ、その暗さに押しつぶされないヒロインを見せてくれたクリスティアン・ペツォールト監督は、2012年のベルリン国際映画祭で監督賞を獲得。脚本もペツォールト監督によるもの。バーバラがとる行動は、予想外なのにスルスルと続く事柄を決定し、結果的にすごく腑に落ちるという、技ありの脚本だ。
ドイツの同じ時代を描いた秀作『善き人のためのソナタ』と比較して語られることが多いこの映画だが、私は『かぞくのくに』(第73回でご紹介)を思う。その時の映画祭で、ヤン・ヨンヒ監督が、同じ経験を持つベルリンの観客に訴えかけるようだったのを思い出す。
同じく引き裂かれた国を描きながら『東ベルリンからきた女』は明るさを感じさせ、『かぞくのくに』はやりきれない思いを残す。テーマやストーリーの違いに加えて、現在から見ている私たちが、ドイツのその時代が終わったこと、北朝鮮にはまだ自由に行き来できない人がいることを知っていることも大きい。
時代を切り取って見せる映画も、現在と別個には存在し得ないものなのだなあ。
『東ベルリンからきた女』1月19日公開 |
■ ■ ■ |
東ベルリンから、田舎町の病院にやってきた女医バーバラ(ホス)。アンドレ(ツェアフェルト)が率いる小児外科で勤務する。医師としての確かな腕で仕事をこなしつつ、同僚たちとの間に壁を作るようなバーバラだが、ある日、トラブルを抱えた少女が運ばれてきて…
監督 クリスティアン・ペツォールト
出演 ニーナ・ホス、ロナルト・ツェアフェルト ほか
|
2013.1.15 掲載
|