今年のベルリン映画祭で国際アートシアター連盟賞を受賞した『かぞくのくに』は、北朝鮮に暮らす兄と日本に暮らす妹を主人公とした物語。在日コリアン2世であるヤン・ヨンヒ監督の体験が基になっている。
北朝鮮に帰国した3人の兄を持つヨンヒ監督は「兄たちは、絶対に不平は言いません。もし日本に残っていたらとか考え始めたら、よけいつらくなるだけですから」と語る。3 人の兄を混ぜ合わせたキャラクターという寡黙な兄を、井浦新が好演している。理不尽を運命として受け止めるしかないのが、感情を押さえ込むことにつながっているような兄だ。
ヨンヒ監督自身である妹を演じるのは安藤サクラ。兄とは対照的に、激しい思いがほとばしるような妹が、無理なく今のヨンヒ監督と重なる。ヨンヒ監督は、著書『北朝鮮で兄(オッパ)は死んだ』やドキュメンタリー映画『ディア・ピョンヤン』など、兄、家族をテーマとし続けている。そのヨンヒ監督渾身の一作である『かぞくのくに』に、東西に分断された経験を持つベルリンの観客からは、大きな拍手が送られた。
『聴こえてる、ふりをしただけ』も、同じベルリン映画祭でジェネレーション部門スペシャル・メンションを受けた。『かぞくのくに』が大きな歴史の流れの中で引き裂かれた家族を描いた映画なら、こちらは死によって母親と引き裂かれた小学生の女の子を描いている。
母親の死を受け止めきれない女の子の心の揺れが、クラスメートとの関係を通して、きめ細かく描かれる。子どもの世界を丁寧にすくって見せた今泉かおり監督は、子育て真最中のお母さん、また看護師でもある。
両方とも低予算映画だが、大きな舞台できちんと評価されたことがうれしくなるような作品だ。
病気治療のため北朝鮮から来日した兄(井浦)との再会を喜ぶ妹(安藤)。だが、兄には見張りがついている。家族の複雑な思いの中、病院で検査を受けたばかりの兄に早々に帰国命令が出て…
監督 ヤン・ヨンヒ
出演 安藤サクラ、井浦新 ほか
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『聴こえてる、ふりをしただけ』8月11日より順次公開 |
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母親が亡くなって間もない5年生のサチ(野中)のクラスに、転校生(郷田)がやってくる。お化けの存在を信じるという転校生と、いったんは親しくなるサチだったが…
監督 今泉かおり
出演 野中はな、郷田芽瑠 ほか
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2012.8.16 掲載
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