監督長編映画は、『Red Road』、『フィッシュ・タンク』、『Wuthering Heights(嵐が丘)』とまだ3本のアンドレア・アーノルド監督だが、どれを見ても実力の程がうかがえる。中でも面白いのが『フィッシュ・タンク』だ。
3本に共通しているのは、性的な緊張感が物語を先へと進めていくこと。『Red Road』では追われる男と追う女、『Wuthering Heights(嵐が丘)』では、いっしょに育てられ、年頃となったヒースクリフとキャシーの間の危ういバランスが転換していく。
それが『フィッシュ・タンク』では、15歳の少女と、その母親が家に連れ込んだ男だ。アブナイ雰囲気を放つのが、みずみずしい新人女優ケイティ・ジャーヴィスと、今では超売れっ子となったマイケル・ファスベンダーとくれば、ますます目が離せない。だらしないけれど可愛い気もある役どころにはまるカーストン・ウェアリングが母親役、癖のある役を多くこなしてきた若き演技派ハリー・トレッダウェイが少女のボーイフレンド役と、脇もいい。
この映画から思い浮かんだのが、イギリスの名匠ケン・ローチ監督映画『SWEET SIXTEEN』(第37回で少しご紹介)だった。そちらはもうすぐ16歳になる少年が主人公。夢を描き、そこに向かうところまでは同じでも、行き着く先が対象的だ。主人公が少年と少女、プラス監督も男性と女性で、いろいろ考えてしまった。やはり女性は立ち直りが早く、男性はあきらめ悪く引きずっていくもの?破滅にロマンを見出すのが男性で、持ちこたえることに意義を見るのが女性?ふーむ…
これに限らず、アーノルド監督はローチ監督と比して語られることが多い。骨太な作風と、労働者階級を好んで描くことも共通しているからだろう。『フィッシュ・タンク』でも、主人公一家は低所得者用公共住宅らしき団地に住んでいる。少女のまだ小さい妹からしてバリバリにワーキング・クラスっぽく、堂に入ったののしり言葉を吐いて笑わせる。
ちなみに、ジャーヴィスは、ボーイフレンドと激しい口論をしているところを気に入られスカウトされている。学校をドロップアウトして失業中だったという。この映画で華々しいデビューを飾った後、見ないと思ったら、17歳で子供を生んでいた。子育てが一段落したら、またスクリーンに戻ってきてほしい。
『フィッシュ・タンク』8月4日公開(三大映画祭週間2012で日替わり上映) |
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母親(カーストン・ウェアリング)にも、友人たちにも、突っかかっていく15歳の少女(ジャーヴィス)。ドロップアウトしかかっている学校より情熱を燃やすのはダンスだ。母親が家に連れ込んだ男(ファスベンダー)は、そんな少女に理解を示す。よき友、また父親代わりとなっていくようでもあるが…
監督 アンドレア・アーノルド
出演 ケイティ・ジャーヴィス、マイケル・ファスベンダー ほか
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2012.8.3 掲載
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