母恋いものには、弱い。
『SWEET SIXTEEN』はもちろん、『A.I.』だろうが『火垂るの墓』だろうが、母恋いの要素が少しでもあるものは、もれなく泣いてしまう。ほとんどパブロフの犬だ。
まして、母を恋うのが才能ある美しい若者ときたらもう。
若者の名はジョン・レノンだ。
ティーンエージャーとなったジョンは、実母と、育ての母ミミ叔母さんの間を行き来して暮らす。奔放な実母はジョンと歌い踊る時間は過ごせても、ミミから引き取って育てる力はない。行き場のない少年Nowhere boyのジョン・レノンの物語は情に訴えるだけでなく、映像の美しさにも打たれる。
サム・テイラー=ウッド監督は、もともと写真やビデオ作品で知られたアーティストだ。人肌をドラマチックに撮った作品もある。
長編第一作となる『ノーウェアボーイ』でも、ジョンを演じるアーロン・ジョンソンの顎から首にかけての驚くほど綺麗なショットが登場する。バンパイアでなくても、ため息ものの喉笛。監督のアーティストとしての力量のほかに、注ぐ愛情の量もあるのかも。2人はこの映画での職場恋愛カップルだ。(2人の写真は前回に)
美形のアーロンだが、写りによっては甘すぎたり、イヤミったらしくもなる顔だ。ヘルムート・バーガーの魅力を最大限に引き出せたのが恋人のルキノ・ヴィスコンティ監督だったように、アーロンを最も魅力的に撮れるのがテイラー=ウッド監督と思う。2人で、どんどん映画を作って欲しい。
写真は、母親役のアンヌ=マリー・ダフ。ジョンをつらい目にあわせる悪役のようだが、母の方だって、つらい。クリスティン・スコット・トーマスが演じるミミ叔母さんもつらい。みんな、つらいのだ。この両女優が、また上手い。
ドラマとしても面白いが、ビートルズファンには、ロックンローラーのジョンと音楽家のポールという個性の違いの描き方など、興味深いところだろう。
ちなみに、ダフも職場恋愛組。パートナーは、イギリスのテレビドラマShamlessでの恋人役ジェームズ・マカヴォイだ。コメディドラマだったけど2人の恋愛ストーリー部分はけっこうシリアスで、ハッピーエンドを願いつつ見た。その流れで、こちらのカップルも実生活でも末永くと願ってしまう。
ところで今書いていて気がついたけど、この映画 = がついたりとか、長い名前の人が多かったのね。だから、どうしたというわけでもありませんが。
『ノーウェアボーイ』11月5日より順次公開 |
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父、そして母と生き別れ、ミミ叔母さん(トーマス)に育てられたジョン・レノン(ジョンソン)は、苛立ちを抱えた少年になる。近隣に住むようになった母親(ダフ)とミミとの間の三角関係にも似た暮らしの中で孤独感を深めていくジョンは、次第に音楽に情熱を傾けるようになるが…
監督 サム・テイラー=ウッド
出演 アーロン・ジョンソン、アンヌ=マリー・ダフ、クリスティン・スコット・トーマス ほか
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2010.10.25 掲載
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