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イギリスの名優がズラリ競演『裏切りのサーカス』

良いスリラー映画は、俳優が拮抗している。出演者を見ただけで、犯人はこのあたりと簡単に目星がつくような、ばらつきのある配役では興ざめだ。主演にゲイリー・オールドマンを据えた『裏切りのサーカス』は、主要登場人物はおろか端役にまでオールドマンに劣らないほどの実力派を揃えた。これで原作がスパイ小説の名手ジョン・ル・カレとくれば、面白くないほうが不思議というもの。
  と言っても、007のような派手でわかりやすいスパイものではない。過去の場面が入り混じる筋立てはちょっと複雑だし、ディテールを重ねていくことで深みを出す構成は注意していないと見逃すこともありそうだ。2度、3度と見る毎に、前回気付けなかったことを見つけられそうな映画だ。

原題は、原作小説そのままの「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」。サーカス(英国諜報部の俗称)の中で、ティンカー(修理屋)、テイラー(仕立て屋)、ソルジャー(兵士)など、イギリスの子どもの数え歌からとったコードネームが付けられた諜報部員を、主役級の俳優が演じる。
  『英国王のスピーチ』(第45回でご紹介)のオスカー俳優コリン・ファースが、スーツ姿もスマートなテイラーなら、『Infamous』で特異な作家トルーマン・カポーティを演じた怪優トビー・ジョーンズが、ちょこまかとコネクションを作りあげていくティンカーと、コードネームの命名もばっちりというキャラクターを見せる。その下で働く若手も今をときめく面々。『Bronson』に『Warrior』とマッチョ役が続いたトム・ハーディが、筋肉ではなく演技力の方を見せれば、BBCドラマのシャーロック・ホームズ役で人気のベネディクト・カンバーバッチも、ヒネリのある役どころで登場する。
  サーカスの中の二重スパイの存在に気がつくヘッドという、要ともなる役で登場するのがジョン・ハート。言わずと知れた大ベテランの名優だが、毎年、複数の新作出演映画を見る。それも、映画祭に出品されるような良作から、娯楽作にインディーズの短編映画までと幅広い。良く働く72歳だ。

ほかにもマーク・ストロングやスティーブン・グラハムなど、イギリスの様々なタイプの名優が並ぶ中でも、凄みを見せるのが主役のオールドマンだ。
  昔はキレた演技で鳴らしたのが、徐々に落ち着いた役柄が増え、『ダーク・ナイト』では渋い警部役だった。若き日のオールドマンが得意としたようなジョーカー役をヒース・レジャーが演じて高評だったせいもあり、よけいに世代交代を感じた。だが、年をとって丸くなっただけではなかった。
  今回も、くすんだような地味な諜報部員役だが、それだけに、現在のカオス的な状況を招いた友との過去を語るシーンが際立つ。静かに話しているだけなのに、内側に渦巻く感情がほとばしるような迫力は、鳥肌もの。
  ハリポタ・シリーズのダニエル・ラドクリフも、最近は監督としても評価されているパディ・コンシダイン(第13回でご紹介)も、影響を受けた俳優としてオールドマンの名前をあげた。ほかにも、オールドマンを目指す後進俳優は数え切れない。この映画を見ただけでも、その理由がわかる。

『裏切りのサーカス』4月21日公開 ■ ■ ■

英国諜報部にソ連側と通じる者がいる!それに気づいた"コントロール"(ハート)だが、作戦失敗で引退を余儀なくされる。スマイリー(オールドマン)が秘密裏にスパイを暴く任務に就くが…

 監督 トーマス・アルフレッドソン
 出演 ゲイリー・オールドマン、ジョン・ハート、コリン・ファース ほか

2012.4.23 掲載

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