マーティン・スコセッシと言えば、タフでハードでダークな世界を描いた名作の数々で知られる監督だ。年端もいかない娼婦が登場した『タクシードライバー』、落ちぶれていくボクサーを描いた『レイジング・ブル』、だましあい殺し合うギャングの世界を見せた『グッドフェローズ』など、挙げていったらキリがない。
そのスコセッシ監督が家族向け映画とは、年をとって焼きが回ったか、と思ったら大間違い。もちろん、血しぶきが飛ぶようなことなどなく、安心してお子様にも見せられる映画だが、その中でもダークな世界はちゃんと息を潜めている。
『ストライプ・パジャマの少年』で世界中の涙をしぼりとる名演を見せた、エイサ・バターフィールドが演じる主人公ヒューゴ自体が、まず悲劇的だ。にぎやかな駅舎内の時計塔に隠れ住むという、子どもならワクワクしてしまうような境遇も、裏を返せば戦争孤児の1人きりの暮らしにほかならない。
たむろする孤児たちを捕まえる駅の監視係も、負傷した足につけた補助機具のせいでギクシャクとしか走れない。子どもの目にはユーモラスにも写りそうだが、駅の花売り娘とのシーンでは、その戦争での負傷が2人をつなぐポイントになる。
この監視係を、ボラットなどお下劣キャラで知られるサシャ・バロン・コーエンが演じ、シリアスでもいけるところを見せている。花売り娘は、演技派エミリー・モーティマーだ。そのほか、うらぶれた様が絵になるレイ・ウィンストンなど、戦争の影が色濃い1930年代のパリを舞台に、深みのあるキャラクターを演じている。
エイサの相手役を務めるのは、『キック・アス』(第36回でご紹介)などの人気者、クロエ・グレース・モレッツ。その若い2人の冒険に子どもたちが目を輝かせている横で、親たちも大人のキャラクターの陰影のあるドラマが楽しめるというわけだ。
キーとなるキャラクターが、ベン・キングズレーが演じるおもちゃ屋だ。思い出さないように努めている、深い悲しみをともなう、その過去が、ヒューゴの願い、そして、懐かしい映画の創成期にもつながっていく。
ヒューゴの夢に、スコセッシ監督の夢を重ね合わせたようなマジカルな映像世界はアカデミー賞撮影賞、美術賞、視覚効果賞を、加えて音の方でも録音賞、音響効果賞を受賞した。
『ヒューゴの不思議な発明』3月1日より公開 |
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駅の時計の裏側に隠れ住む孤児のヒューゴ(バターフィールド)。父親(ジュード・ロウ)の残した精巧な機械人形が動き出す日を夢見て、駅構内のおもちゃ屋(キングズレー)から部品をせしめようとする。おもちゃ屋の孫娘(モレッツ)は、そんなヒューゴを手助けするようになり…。
監督 マーティン・スコセッシ
出演 エイサ・バターフィールド、クロエ・グレース・モレッツ、ベン・キングズレー ほか
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2012.2.29 掲載
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