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損なわれた少年期『ミステリアス・スキン』

『(500)日のサマー』に『50/50フィフティ・フィフティ』(前回でご紹介)と、女性に主導権をにぎられる情けなくも心優しき主人公を演じたジョゼフ・ゴードン=レヴィット。両作ともに好演を見せ、このまま草食男子の優良物件みたいなものが、はまり役になっていきそうだ。

が、ちょっと前には、こんなヒリヒリした青年を演じていた!
  『ミステリアス・スキン』でジョゼフが演じたのは男娼。少年野球チームのコーチから受けた性的虐待がきっかけで、身を売って稼ぐようになる。大人の影の部分を請け負うように少年期を過ごしてしまった、ひねた目をした青年像が印象的だった。
  あまりのショックでその記憶がスッポリ抜け落ちてしまったもう1人の被害者である青年と、時を経て再会することで物語は転換する。
  強迫観念のように中年男性を性の対象としてしまう、大きくなっても夜尿症が止まらないなど、2人の少年がたどる経過にはリアリティがある。同名の原作小説は、性的虐待をうけた少年の長期に渡る影響が正確に描写されていると、心理学者リチャード・ガートナーが言及したことでも話題になったものだ。

映画はイギリスでは2005年のロンドン・レズビアン&ゲイ映画祭のクロージング作品としてお披露目された後、劇場公開もされた。また、昨年の同映画祭でも、新作『カブーン!』をひっさげてやってきたグレッグ・アラキ監督の過去の名作として、再上映された。
  日系アメリカ人のアラキ監督、日本でも東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で『ミステリアス・スキン』、『カブーン!』とも上映されている。
  ねじれた2つの青春の有り様が心に響く『ミステリアス・スキン』、セクシー・シーン満載の娯楽ミステリー『カブーン!』と、アラキ監督はなかなか幅広いようだ。

ジョゼフは、今年以降、出演作の公開が続々。この夏公開の『ダークナイト ライジング』の後には、スティーブン・スピルバーグ監督作、クェンティン・タランティーノ監督作と話題作揃いだ。
  ロバート・レッドフォード監督ブラッド・ピット主演の『リバー・ランズ・スルー・イット』でブラッドの兄役の子ども時代を演じ、映画賞も受賞した子役だったジョゼフ、大人の俳優への脱皮も上手く果たしたと言えそうだ。
  今のところ輸入DVDで見るしかない『ミステリアス・スキン』も、ジョゼフの代表作の1つとして再注目されることを願いたい。

『ミステリアス・スキン』輸入DVD ■ ■ ■

8歳の二ールとブライアンはともに少年野球のコーチ(ビル)に性的虐待を受ける。ボーイフレンドのことで手一杯のシングルマザーの母親と暮らすニールは、早くに家を出て男娼となる。一方、ショックで解離性健忘を起こしたブライアンは、失われた記憶をUFOと結びつけて考えてしまう。かけ離れた世界で生きるようになった二—ル(ジョゼフ)とブライアン(ブラディ)が再会し…。

 監督 グレッグ・アラキ
 出演 ジョゼフ・ゴードン=レヴィット、ブラディ・コルベット、ビル・セイジ ほか

2012.2.1 掲載

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