WEB連載

出版物の案内

会社案内

人でなし?『ソーシャル・ネットワーク』

フェイスブックの創成期を描いた本作を見た後、ネット検索した人は多いと思う。検索したくなるのはフェイスブックではなく、それを作った人間たちについて。それほど興味をかきたててくれる人間ドラマになっている。

『ファイト・クラブ』、『セブン』と、人間の罪深い欲望を虚実取り混ぜた世界で描き、ゾクゾクさせてくれたデヴィッド・フィンチャー監督、その手際は、実話を基にした本作で、衰えるどころか、いっそう際立っている。オスカーの呼び声も高い。
  暴力にいざなう者といざなわれる者、犯人と刑事といった前述2作のようなわかりやすい対立が本作では見えにくい。最後には、まさかと思う人たちが敵味方となってしまう。
  現実の世界、それも生き馬の目を抜くビジネス界では、そういうものなのかもしれないが、若々しい学生たちによって起業されたフェイスブックだけに苦く、もの悲しい。

その中で、共感を呼ぶ役になっているのが、主人公のハーバード大での友人エドゥアルド・サヴェリンだろう。演じるのはイギリスの若手演技派アンドリュー・ガーフィールド(イギリスでの活躍は第31回に)だ。くっきりした濃い眉がサヴェリン本人とも似ている。
  この後、春に公開が控える『わたしを離さないで』でもそうだが、可哀想なことになる役がはまる人だ。
  イケメンには違いないが、あまり華やかさ、派手さがないというところで、そういう役にすんなり馴染む。反感をもたれないイケメン、うーん、おいしいとこかも。

対する主人公が、アメリカの若手演技派ジェシー・アイゼンバーグ。こちらも顔立ち(エジンバラ映画祭での写真が第32回に)でいえば、イケメンというほどでもないけど、感じ悪くないのは、マーク・ザッカーバーグ本人もそう。
  どっちつかずの顔同様に、一番謎なのもこの人だ。目的のためには手段を選ばず、計算高く人を切り捨て、フェイスブックを大きくしたと言っても、言い過ぎではないだろう。やってきたことは、裏切り者、人でなしと形容されてもしょうがないことなのに、映画中では、それほどひどい人とも思えない。アイゼンバーグ、原作、脚本、監督と、キャラクターを作ったみんながお見事。
  悪役にしなかったというとこで、一段と面白く、深くなった。

その2人の演技派に挟まれて、予想外によかったのが、ご存知ジャスティン・ティンバーレイク。スターっぽいゴージャスな感じが、いかにもバブリーな若きIT企業家にピッタリ。一足早くITビジネスを成功させた先輩として、まだ青臭くもあるハーバードの面々に関わってくるのだが、調子よすぎるきらいもある物慣れた雰囲気の影に危うさも見え隠れする。
  アイゼンバーグ、ガーフィールドは、これまでの作品見ても上手いのはわかるけど、ティンバーレイクにこの役をふったというのは配役の妙、ドンピシャだったという意味で、たいしたものだ。

総合してフィンチャー監督にアカデミー監督賞?作品賞もいくかな?

『ソーシャル・ネットワーク』1月15日公開 ■ ■ ■

ハーバード大学を舞台に始るストーリー、コンピューターオタクの学生たちが、新しいソーシャル・ネットワーク作りで盛り上がっていく過程は、最初、青春もののような爽快さもあるが…。
  奇麗事では済ませないのがフィンチャー監督。

 監督 デヴィッド・フィンチャー
 出演 ジェシー・アイゼンバーグ、アンドリュー・ガーフィールド ほか

2011.1.13 掲載

著者プロフィールバックナンバー
上に戻る