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第93回「盛る」(その2)


前回からつづく
元々、「盛る」には他動詞の意味しかなかったが、複合動詞「盛り上がる」が生まれたことにより、自動詞の分野にも進出したのだ。

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それから、約30年たち、「盛る」にまたまた新しい意味が付加された。(図中②)「うず高く積み上げる」意の派生で、必要以上にメイクして写メ*1)する意味が生まれ、さらに必要以上に話題を大げさにすることをも表すようになった。その写真や文章を他人が揶揄するとき、「盛ってるね。」というようによく使われる。

前述した「盛る」の発生順を改めて見ると、「過剰にメイクすること」は、(図中②)うず高く積み上げる=つまり物理的に積み上げると、 (図中④)毒を混入させるの二つの意味からの派生ではないかとの思いが募る。女が「過剰にメイクすること」は男にとっては、毒薬に等しいからだ。

ところが最近は、

    ④お互いに髪型とかメイクとか盛れてないものはSNSに載せない。*2)

と自ら言う人が出てきた。つまり、盛ることが当然という考え方だ。そもそも普通の化粧やメイクでも、本来の顔を必要以上に加工しているのである。それを少々過剰にしても、さらに写真データや文章を少々加工して何が悪いという考え方であり、言葉の使い方である。

この調子では、世代交代が進むと、

    ⑤「今回の決算では、最終利益を少々盛りました。」

・・・と、記者会見で述べる経営者が出て来かねない。「それって、どういう意味ですか?粉飾ですか?」と質問する記者が出てくるだろうが、さらに時代が変わると聞く人みんなが違和感を持たない表現になってしまうかもしれない。(この稿終わり)


*1)「写メ」については、本連載の第45回第46回を参照いただきたい。
*2)池田美優『じぶん流@SNS』

[参考文献]
■北原保雄・他編2001『日本国語大辞典第二版』小学館
■新村出・編2018『広辞苑 第七版』岩波書店
■池田美優『じぶん流@SNS』(朝日新聞2018年5月14日付所収)

2018.7.15 掲載



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