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揺れ動く日本語~MOVIN'JAPANESE

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第85回「パンツ」(その2)


前回からつづく
手許の英和辞典で“pants”を引いてみると、下着のパンツの意味だけではなく、いろいろな形態の二股に分かれた下半身用衣服の意味が載っており、さらに英米では微妙に意味範囲が違う。アメリカではズボンの意味があるのに、イギリスでは上着のズボンを“trousers”と言うのだそうだ。日本のファッション業界でも目新しさを出そうとして「トラウザーズ」と表記した宣伝物も見られる。

しかしながら、ファッション業界から離れた日常生活で、男性はズボンのことを「パンツ」とは言わないと思うが、女性はスカートに対する上着として「パンツ」を使う。

  • 「今日は雨だから、パンツ*)にしようかしら。」

などである。

ここまで、もっぱら上着としての両足を別個に覆う下半身用の服に言及してきたが、次に下着について考える。

男性用下半身下着は前述のように日常的には「パンツ」と言うが、衣料店では「ブリーフ」か「トランクス」である。どこにも「パンツ」などと書かれていない。「パンツ」はあくまでもズボンのことである。

女性用下半身下着の場合は男性週刊誌などの媒体では、「パンティ」(panties)と言うが、ファッション業界では「ショーツ」と言う。「パンティ」が性的対象物のニュアンスを感じさせてしまうからであろうが、「パンスト」(=パンティ・ストッキング)がまだ生き残っているのは不思議である。「ティ」が抜けたことによって中和されたからであるに違いない。

とは言っても、女性は妙なシチュエーションで「パンツ」を使う。女性が何らかの事情で下着を人目にさらしてしまった場合は、

  • 「ドレスの後ろチャック閉め忘れパンツ丸出し事件から始まった昨夜のライブでしたが~」
    (ジャズ歌手・今井有紀facebookより)

のように、「ショーツ」とは言わないのが普通である。

このように、現代ニッポンでは、下半身を覆う物はファッション性を考えなければ、上着であれ、下着であれ、「パンツ」と言っておけばよいのである。

photo
商品説明にはボトムス、パンツ、商品名はトラウザーズ。。。
かたくなに「ズボン」を避ける・・・De-classe広告より

*) この場合、「ツ」にアクセントをおいた方がカッコいい。

[参考文献]
小西友七・主幹1992『フレッシュ ジーニアス英和辞典<改訂版>』大修館書店
米原万里2005『パンツの面目 ふんどしの沽券』
増田美子2010『日本衣服史』吉川弘文館
『アンちゃんの和製英語講座』(「アンちゃんから見る日本」所収)
『語源由来辞典』
今井有紀2017『facebook』

2017.11.15 掲載

著者プロフィール
マーク秋山[MARK AKIYAMA] : 1975年、早稲田大学商学部卒業後、日本楽器製造株式会社(現ヤマハ)に入社。楽器用ソフトの企画制作、出版物編集、著作権・法務関連のリーダーを務めた。小学校の壁新聞時代から一貫して、言葉、表記、レイアウトに大きな関心を持つ。定年退職後、日本語学、日本語教育学を学び、現在は愛知国際学院非常勤講師としてアジアからの留学志望者に日本語を教えている。会社員時代からオールディーズ系のバンドで演奏活動を行い、エレキベースを弾く。
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