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第69回 「極み」(1)


ゲスの極み乙女。メンバーの不倫に関する過熱報道以来、「~の極み」という表現も増加した。「極み」は質の高さを表すために商品名に使われることが多い。
  化粧品、エステ用品、スーパー銭湯、エアコン、飲料など癒しの提供を売り物にできるネーミングでもある。「極み」以外に送り仮名を使わず、「極(きわみ)」と表記する場合もある。

従来は送り仮名なしの「極」の場合は音読みで「キョク」が普通だった。2012年頃には二大政党(自民党、民主党)に対抗する新勢力としての「第三極(きょく)」が話題になった。 *1

例外として、駐車場の看板でお馴染みの

  • 「月極(つきぎめ)○千円」

があるが、これも「ゲッキョク」と思い込んでいる人が多いことが以前からよく話題になっていた。訓読みで「きめ(る)」という例はこれ以外に見たことがないのだが、明治時代の代表的な辞書、「言海 *2」 での「きめる」の見出し表記は「極」だけが載り、「決」は見当たらないのだそうだ。

そして、「きわみ」と読ませたい場合は送り仮名をつけて「極み」とすることが常識だった。現代仮名遣いでは動詞の活用語尾を送るのがルールだからだ。ところがここへ来て、「極」一字で「きわみ」と読むことを強いる傾向が出てきた。

三菱電機のルームエアコン「霧ヶ峰Z」の機能名表示として「ムーブアイ極(きわみ)」がその例である。
  件(くだん)の騒動が尾を引く2016年4月にもサッポロビールが「極(きわみ)ZERO-CHU-HI」を新発売した。

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[参考文献]
笠原宏之(2008)『訓読みのはなし-漢字文化圏の中の日本語』光文社新書
サッポロ 極(きわみ)ZERO-CHU-HI
三菱電機ルームエアコン「霧ヶ峰Z」ムーブアイ極機能

*1 「揺れ動く日本語」バックナッバー 第34回第35回
*2 「言海」・・・大槻文彦編纂により1889~1891年刊行。言葉が五十音順に並べられた初の大型辞書。

2016.7.15 掲載



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