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第35回 第三極(2)


ちなみに革命というものは権力者の圧政に耐えかねて民衆が蜂起するのが普通だ。しかし、このフランス革命は当時のルイ16世が、それまで優遇されていた第一身分(僧侶)、第二身分(貴族)への課税を提案したこと(三部会)に端を発しているというから面白い。つまり、ルイ16世は左と言えば左なのだ。

この左、右は議長席から見た左、右だから、一般人の感覚とは逆だ。一般の人はもし当時見学が許されたとしても議長席側からは見ることができないはずだからだ。
  ともあれ、このフランス革命時の議会での呼称がその後300年以上も続いている。各政党の考え方は当時で言う左へ左へとシフトし、もはや王がすべてを決定するなどと言う国は少なく、共和国制の国では経営者寄り、労働者寄りの党の性格の違いはあっても、あまり左とか右とか言わなくなっている。

さて、この「極」という言葉、本来は「いちばん端」という意味で、物理的には「いちばん端に存在する」、精神的には「極端な考え方をする」ものに対してつかわれる 。

極意(ごくい)は一般の人が持っていないテクニックを示し、極悪(ごくあく)はこれ以上考えられないような悪人を言い、ポジティヴ、ネガティヴ両用に使われるが、広告宣伝の世界では最高品質の意味で使われることが多い。「ごく」は呉音(*注1)であるが、「極(ごく)うま」、「極生(ごくなま)」などと使われることが増えているので、「きわめる」などと同じく和語(訓読み)と錯覚してしまいそうだ。「ごく」が副詞にも転化していることも関係ありそうだ。

極東(きょくとう)はヨーロッパから見てアジアの一番端に位置する日本、中国、朝鮮あたりを指し、北極、南極は地球の回転軸上の両端を指す。「きょく」は漢音(*注2)である。

そう考えると、「第三極」の各政党はそんなに「極」なのか?と、思ってしまう。 いや、そんなことはない。
  天皇が主権をもつべきなどと言う政党はなかったし、人民の土地保有を否定するような政党もなかった。とにかくマスコミが強烈な言葉を欲しがり、誰かが「極」という言葉を思いついただけのような感じである。「第三勢力」程度の意味であり、これもまた言葉のインフレ(価値逓減)である。

もともと、思想の世界での「極」、つまり極左や極右は過激な破壊行動と結びつけて考えられがちだったので、選挙では一般が投票するときの選択肢から外れることが多かった。。。。ということはもしかしたら、「第三極」ネーミングもメディアの某による陰謀なのか?(おわり)

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【(*注1)呉音(ごおん)】
5〜6世紀に中国南方から伝わった発音を元にした日本独自の読み方。仏教用語に多い。
【(*注2)漢音(かんおん)】
8〜9世紀に中国北方から伝わった発音を元にした日本独自の読み方。

[参考文献]
浅羽通明2006「右翼と左翼」幻冬舎新書
安藤正勝2008「物語 フランス革命」中公新書
和田利政、金田弘2009「国語要説五訂版」大日本図書


2013.9.15 掲載



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