WEB連載

出版物の案内

会社案内

“鉄の女”過ぎて賛否両論のマーガレット・サッチャー

4月8日、マーガレット・サッチャー元首相が87歳で亡くなった。

イギリス初の女性首相というだけで好ましく思っていた私が、イギリスに来て、ちょっと驚いたサッチャーの不人気。
  そのくっきりしたキャラが面白がられる一方、結果的に弱者切捨てとなってしまった政策が激しく批判されるのは、日本で言うなら小泉元首相?

イギリスでは、サッチャー死去のニュースを受けて、町に繰り出してお祝いする人まで現れた。「死者に対する冒涜では?」と問われ、「俺はサッチャーに3年も投獄されたんだ!」と答えた人は、当時、政策に反対して暴動を起こした中の1人らしい。

サッチャーが派兵を決定したフォークランド紛争はもちろん、サッチャー政権後の戦争で前線に送り込まれた若い兵士たちも、サッチャーのせいとも言える。入隊する若者には、職の無い地方出身者が少なくない。地方の産業が衰退する一因となったのが、サッチャーの経済政策だった。兵士たちを撮ったドキュメンタリー映画『アイソレーション』(こちらでご紹介)のルーク・シーモア、ジョセフ・ブルの両監督は、サッチャリズムの負の遺産と言い表した。

photo
サッチャー夫妻を演じたジム・ブロードベンド&メリル・ストリープ
第62回ベルリン国際映画祭

アイルランドもサッチャーに反感を持つ人が多そうだ。政治犯としての扱いを要求し、ハンガー・ストライキを決行したIRAのボビー・サンズらに対し、「彼らは政治犯ではなく、ただの犯罪者だ」とサッチャーは断固とした姿勢を崩さなかった。獄中から国会議員補欠選挙に出馬、当選したサンズだったが、ストライキの末に餓死している。それに続いた仲間も同様に亡くなった。

というように、直接的、間接的にサッチャー政策の犠牲になった人もいて、サッチャーを良く言わないのがイギリスの良識派というところもありそう。
  メリル・ストリープがサッチャー元首相を演じた『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』(こちらで上記ボビー・サンズが主人公の『ハンガー』も併せご紹介)で夫デニスを演じたイギリス俳優ジム・ブロードべンドも「僕はサッチャー支持者ではないが」と前置きしてから、映画について語った。

今回の訃報に際しても、アメリカのストリープが「畏敬の人」と称える一方、イギリスの巨匠ケン・ローチ監督は「彼女の敵はイギリスの労働者階級だった」と手厳しく「公葬ではなく私葬にすべき。それは彼女が望んでいたことでもある」としている。

亡くなってまでも賛否両論とは、たいしたものだなあ。ともかくも、ご冥福をお祈りいたします。

2013.4.13 掲載

著者プロフィールバックナンバー
上に戻る