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川島佑介のtasting time

毎月25日頃更新
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この世界には様々なものがあります。その楽しみ方は千差万別。でも知れば知るほど楽しくなってゆく「それぞれの味わい方」であります。 僕が出会い、素敵だと感じたものたちを「僕なりの楽しみ方」でご紹介してみようと思います。

第26回 進むべき路のために


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学生時代、僕は両親から『勉強をしなさい』という言葉を一度も言われたことがありません。でもそれは特別に僕の成績が良かったからというわけではないのです。小中学校の九年間、転校続きだった僕にとって進み方の違う学校の勉強は「苦」そのものでしたし、試験の時でさえも年中休んでいましたから、むしろよくあの成績で進級や卒業がスムーズに出来たものだと不思議に思っているくらいなのです。なのに何故親からは咎められることもなく来られたのか。実はそれは父の生い立ちにも少なからず関わりがあったようです。

僕の父の父、すなわち僕の祖父は旧制中学の教頭を務めていた人で、こと勉強に関しては非常に厳しい人だったと聞きます。父はそんな祖父に付きっ切りで勉強を教えられ、答えが間違っていた時などには殴られたりもしながら、文字通り徹底的な叩き込まれ方をしてきたのでした。遊びたい盛りだった頃の父は心身の苦痛を伴う祖父との勉強時間を何より嫌い、怖れ、そのスパルタ的な教育方法や父親の存在そのものさえも憎んでいたこともあったそうです。

千葉の旧制中学に通っていた父は、学業では常に成績はトップ、柔道は三段、剣道は二段で、陸上の記録会に出れば短距離においては当時の県の最高記録を塗り替えるなど、まさに「文武両道」を地で行く人でした。しかしそんな彼が旧制中学卒業後の進路として望んだのは、アスリートへの道や学問の研究者への道ではなく、音楽大学へ入学し、ピアニストとして大成することだったのです。膝を突き合わせながら、自分のしたいと思っていることを初めて祖父に打ち明ける時、父は『どれ程までに叩かれるのだろうかと思いながらどうしてもしてみたかったから一生懸命に伝えたんだ。あの時は本当に恐ろしかった』と言います。祖父は腕を組み、目を閉じたまま、思い詰めた面持ちで息子が語る夢をじっと聴いていたそうです。『日本で最高の音楽大学でなければ入学することを許さん』という条件を祖父に付けられてしまったものの、祖母の口添えもあって、それからの一年間、父は祖父の手配した一流のピアニストの下でピアノの猛特訓に励みました。しかしそうして迎えた翌春の音楽大学受験は残念ながら失敗に終わったのです。その後、彼は音楽家への道を諦め、国立の師範大学へ入学、卒業後は高等学校の数学の教師になるのでした。

戦前の時代、音楽家として生活をしてゆこうとするならば「=クラシックを極め尽した一流の音楽家であること」それが絶対条件だったのです。もしもそうでないのであれば、学問を生業とする職に就くことが何よりの安定であり、またそれこそが息子の幸福であると祖父は考えていたようです。いざとなれば祖父は“その道”の中では“顔の利く人”でしたからそういった意味でも安心だったのかもしれません。

どんな親でも同じこと。子供の幸せを願わない親はいないものです。ただ少しばかり子供の人生よりも自分が日々生きることの方が大変だと感じてしまう親もあり、心を配る余裕すら足りなくなってしまうのです。普段、どれ程忙しかったとしてもほんの少しの間だけでもちゃんと子供を見つめて、両腕でしっかりと抱きしめてあげられたならば、世の中の悲惨な出来事のいくつかのものは起こらずに済むこともあるだろうとも思います。早くして他界してしまった祖父の思い出は欠片さえも僕の中に存在しないのですが、父から伝え聞く祖父の姿というものは、子供に愛情を注ぎ続ける温かい父親そのもののように感じられます。それはやはり父の心の中に生きている祖父の姿そのものなのでしょう。

『いつか音楽を生業にして生きてゆきたい』と僕自身が父に告白をしたのは三十歳を少し過ぎた頃だったと思いますが、父が祖父に打ち明けた時と同じように僕もとても緊張していたことをよく覚えています。そしてその時に父が言った『親というものはいつだって子供が幸せになってくれたならばそれだけで満足なんだよ』という言葉もきっと僕の魂の記憶から消えてしまうことはないでしょう。それは父の心の奥から僕の心の中へと響き、そして静かに流れ込んできました。

世間ではよく『自分がつらい思いをしたから子供にも同じ思いを与えてしまっても仕方ない』とか、またその逆で『自分がつらい思いをしたからこそ、子供には同じ思いはさせたくない』という話を聞くことがあります。そうした気持ちは僕にもよく理解が出来ます。しかしそれらはあくまで自分本位の考え方の中で生まれてくるものでしかないという言い方も出来ます。例え、子供がまだ物事の判断がまともに出来ない状況であったとしても、その子の適性というものは一番近くで愛情を持って見つめてきた家族であれば、何かしら感じられることなのだと思いますし、またそうした家族であればこそ自己に向けての愛情はひとまず離れた場所に置き、子供の可能性を広げるべくより良い方向へと導いてゆくということに意識を集中させてゆきたいものです。

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『親を悲しませたくない・・・・』と言いつつ、自分の夢を語らない子供がいます。また一方では『お願いだから心配ばかり掛けさせないでね』という言い方で、知らず知らずのうちに子供の心を「愛に似せたエゴ」によって雁字搦めにしてしまう親もいます。どちらも嘘を言っているつもりではないのでしょうが、互いに「本当の願い」というものまでは伝え合えていないように感じます。何故、伝え合ってゆけないのでしょうか。それは、まずに自分自身が抱いている自分の「本当の願い」を自分自身が知らないということ、そして「言葉を尽くさない」という問題がそこにはあるのだと思います。こうした場合、子供が伝えたい本当の言葉というものは『あなたを悲しませたくはないから、これからは真剣に自分が幸せになる努力をし続けてゆこうと思います』であるかもしれないし、また親が伝えたい本当の言葉というものは『あなたが願っていることはいつも正直に伝えてほしい。そしてまた伝えて続けていたいと感じてもらえる自分で常に在りたいと思っています』ということなのかもしれません。

人は、自分が本当に何を望んでいるのか、ということさえもなかなか気づけない存在。それでもそれを一緒に見つけようとする日々の上に、またそのことを伝え合おうとする道の上にこそ共に生きる喜びというものがある。それをいつも信じていられるのであればそれで良いことなのだと僕は思うのです。人生の喜びは決して結果などではないと感じています。それは僕自身、共に生きているという実感の中にこの世での一番の安らぎを見ているからです。例え肉親であっても別個の人間であることには何ら変わりはありません。困難なことだからこそ誰かと伝え合えたと感じた瞬間や誰かが心からひとつになろうとしてくれていると感じられた瞬間がかけがえのないものになってゆくのです。本当に一緒に歩んでゆきたいと願う人と同じ思いで決められた進路であるならば、そこに後悔などあるはずはないと僕は確信しています。きっとそれを少しずつ伝え合えるようになる為に僕等は毎日を重ねているような気がしてならないのです。

つい先日、八十歳をとうに越えた父が僕の仕事のことについて突然こんなことを言いました。『音楽が長く続けてゆけるといいね。最近はお父さんの叶わなかった夢が続いているようで嬉しく感じるんだよ』。僕の夢と父の夢がひとつになったように思えて幸せな思いが心を満たしました。ありがとう、お父さん。またひとつ大切な心を伝えてくれて。

2006.8.2 掲載

著者プロフィール
川島 佑介(かわしま ゆうすけ) : 東京都出身。アーティスト。12歳でビートルズに目覚め、14歳でディープ・パープル、キング・クリムゾンに嵌りドラムスを叩く。 15歳でエリック・クラプトンに影響を受けギターを弾き、オリジナル曲を作り始める。 「人生は愉しむこと」を信条としている彼は、好きな音楽に情熱を注ぐ一方で競馬、麻雀、花札などにも精通。競技麻雀のトーナメントでは、当 時最高峰に位置付けられていた阿佐田哲也杯において、南関東ベスト8に入った実績がある。趣味は年間100本以上を鑑賞する映画と癒しやグルメなどに係わること。 自他共に認める「人生を愉しむ天才」である。
2005年6月22日、徳間ジャパンより「あの日の君へ "Pomp and Circumstance"」でCDデビュー決定。

より詳しいプロフィールを知りたい方はこちらをどうぞ。
http://sound.jp/kawashima/ (熱心なファンの方から情報が寄せられました)

★川島佑介さんの応援団「チーム川島」が発足しました。

詳しくはこちらをどうぞ。
http://sound.jp/team-kawashima/

★ケータイポッドキャスティング Caspeee(キャスピィ)で、
  「川島佑介のIt’s my melody」という番組が始まりました。

川島佑介の It's my melody  http://caspeee.jp/channels/intercept/

★川島佑介のCDと、めぐメグのシーボーンアート作品が
  渋谷のLOHASショップ「FUUU」で販売されることになりました。

FUUU神南坂店 原宿LOHAS倶楽部  http://www.fuuu.jp/

★「tasting time」の川島佑介と「一緒にmezzo・LOHAS」のめぐメグたちが
  新しい活動を開始しました!

「OUR LOHAS  the 5th season」 http://members2.jcom.home.ne.jp/the5thseason/index.html

春、夏、秋、冬‥‥。次にあなたの元に訪れるのはどんな季節?
新たな希望を抱き、歩いてゆく季節は、きっと今まで知ることのなかった5番目の季節。
40代を迎えた私たちは、今、新しい季節を歩き始めました。
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