昨年のベルリン国際映画祭で女優賞、男優賞の両方を獲得したのが今回ご紹介する『さざなみ』だ。結婚45周年を迎える熟年夫婦を演じたシャーロット・ランプリング、トム・コートネイともども長い俳優暦あっての名演と思う一方、アンドリュー・ヘイ監督なればこそとも思える。ヘイ監督は監督長編わずか3作目にしての快挙となった。
ヘイ監督の名が一躍知られるようになったのは映画賞複数をさらった長編2作目『ウィークエンド』だった。ゲイ男性のワンナイトスタンドとして始まるストーリーは、惹かれあいながら次に会えるかもわからないそれぞれの暮らしに戻っていく2人の微細な心の動きを丹念に捉えたもの。大きな出来事は2人が出会ったということにつきるような映画だ。
そして3作目『さざなみ』では、出来事が1通の手紙が届くことという、さらなるささやかさだ。その手紙で、夫婦は別方向に心をかき乱されながら、しっくりとお互いに馴染みあった生活は滞りなく進んでいく。45年の重みと、それゆえの取り返しのつかなさ。
出会った、手紙が届いたという小石を心に投げ込んで、そこから広がる波紋を描くことで成り立たせている両作を観ると、ヘイ監督が俳優賞をもたらした、そもそも力のある俳優でなければヘイ監督作を演じることはできないとも言えそうだ。
結婚45周年が目前となった夫婦のもとに、届いた手紙は夫の若かりし日の恋人の遺体が数十年ぶりに見つかったというもの。登山中に行方不明となり、雪に埋もれ、そのまま保存されていたらしい恋人に思いをはせる夫。彼女が生きていれば、夫は自分と結婚しなかったであろうという考えにとらわれる妻。それぞれに穏やかならざる心を抱えたまま、45年の祝いの日が迫る。
監督 アンドリュー・ヘイ
出演 シャーロット・ランプリング、トム・コートネイ ほか
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2016.4.13 掲載
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