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架空にしたら本物になった『ニック・ケイヴ/20,000デイズ・オン・アース』

イアン・フォーサイスとジェーン・ポラードはイギリスの名門美術大学ゴールドスミスで出会い、ビジュアル・アーティストとしてユニットを組んだ。その後、ミュージック・ビデオなども手がけている。その両監督がこのドキュメンタリーを撮るにあたって、まず、手こずったのはニック・ケイブその人を説得することだった。

ケイブは、カリスマ性のあるミュージシャンにして作家、脚本家、画家、俳優。活動を追うには面白い人で、過去にもドキュメンタリーを撮られている。だが、ケイブ本人は気に入っていないのだそう。さもありなん。

ドキュメンタリーに出演するのは、監督が綴る物語の素材になること。そこに映し出されるのは確かに自分ではあっても、自分の思う自分とは違ってしまうこともあろう。彼のような人には耐え難いことに違いない。

さて、そんなケイブをイアン・フォーサイス/ジェーン・ポラード監督はどうドキュメンタリーにしたか。なんとドラマにしてしまった。地球での20,000日目(年で言うと54年と何日かでケイブは当時54歳)を追うという設定。カウンセリングに通い、友を訪ね、自身の運転する車中には、生霊のように過去に係わった人物が現れ…

分析者に語られる父親の話、車中でカイリー・ミノーグと交わされる故マイケル・ハッチェンスの思い出、一方的にバンドを辞めたブリクサ・バーゲルトとの間の緊迫感、設定は架空でも流れる空気は本物。

イアン・フォーサイス/ジェーン・ポラード監督は、ケイブの内面を引き出すことと、新しいタイプのドキュメンタリーの両方に成功している。


『ニック・ケイヴ/20,000デイズ・オン・アース』2月7日公開 ■ ■ ■

地球での20,000日目の朝、ニック・ケイブは目覚める。ベッドを出て、洗面所の鏡を覗き込む。拡大されて見返す目。そこから、カウンセリング、そしてレコーディングと1日は続いていき…

 監督 イアン・フォーサイス/ジェーン・ポラード
 出演 ニック・ケイブ、レイ・ウィンストン、ザ・バッド・シーズ ほか

2015.2.8 掲載

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