『私の、息子』は昨年のベルリン国際映画祭で最高賞である金熊賞を受賞しています。母と息子の関係から様々が透けて見える奥深いルーマニア映画です。
いいとこの母と息子なんですが、息子は、そのいいとこである家に反発しています。ティーンエイジャーなら反発も可愛いですが、もう30男です。
世知に長けた母には、そうではない息子が歯痒い。息子のつきあっている女性から、暮らしぶりまで、何かと、口出し、手出しをするのですが、息子にはそれもわずらわしい。
その息子が、少年を車ではね、死なせてしまいます。事故の際、かなりのスピード違反もしていて、このままでは懲役を受ける可能性も。母は、あらゆる手を使って、息子の罪を軽くしようとします。警察の記録を書き換えさせることから、目撃者の証言を変えさせることまで、コネと金の力を総動員。息子は、その母親の汚いやり方に、またも反発します。
このあたりまでは、すっかり母親を悪者扱いして、頼りないけど悪い人では無さそうな息子に感情移入していたのですが…
スリラー、心理ドラマとしてスリリングに見せていたものが、最後はトーンが変わります。そして、母親を許すどころか、いっしょに涙していたのでした。
母と息子の物語としても優れていますが、ルーマニアの映画であることを考えると、もう一段深いものとなります。ご存知のように、ルーマニアでは1989年に革命が起きました。独裁状態だったチャウシェスク大統領が公開処刑され、新体制になった後も、国民の困窮した生活は改善されず、経済はむしろ悪化したとも言われます。
映画中でも、母と息子が属する階級と、労働者と思われる少年の家族が属する階級の格差が見えます。また、ルーマニアの腐敗した旧社会を母が表し、それに反発する形で出てきたけれど、あまりにも無力な新社会を息子が表していると見ることもできます。
ルーマニアをとても痛烈に描いた作品とも見えるし、2人の主人公の心中に自分を重ねても見られます。様々な見方に応える面白さがあるのが最高賞につながったと思います。
ルーマニア社会の上層部で暮らす母(ゲオルギウ)にとっては、その世界から離れようとする息子(ドゥミトラケ)は悩みの種。その息子が交通事故を起こしたという知らせに、警察署へ。はねた少年が死亡する人身事故だった。毛皮つきのコートで現れた母のほかに、署には質素な身なりの少年の親族も居て…
監督 カリン・ペーター・ネッツアー
出演 ルミニツァ・ゲオルギウ、ボクダン・ドゥミトラケ ほか
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2014.6.21 掲載
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