『キャプテン・フィリップス』は、2009年にソマリア沖でアメリカの貨物船が海賊に襲撃された事件を基にしたもの。人質となったリチャード・フィリップス船長が書いた本が原作。
ということで、最終的に船長が助かることは承知の上で見てさえ、ハラハラドキドキ。
特に出だしは息をもつかせぬ展開に引き込まれる。怪しい船に追跡されていることが判明。とはいえ、こちらは巨大貨物船、あちらは小さなボート。それがあっという間に制圧されてしまう。今時の海賊は武器やら無線設備やらすごい。
ソマリヤ海賊を演じているのは、実際にソマリヤ人。みな痩せた体と小さな顔に目だけがギラギラと目立ち、訛りの強い英語を話す。演技の経験はなくとも、リアリティがある。
主人公フィリップス船長を演じるのはトム・ハンクス。自ら人質となって海賊たちと行くことを提案。どこかに、まだ乗組員が隠れているかもしれない大きな貨物船より、その方が身代金目当ての海賊には好都合だが…
ハンクスは演じるにあたってフィリップス船長と会った。そのハンクスの話からは、普通のどこにでもいそうなアメリカのおじさんが浮かぶ。そういう人が、船長として、やるべきことをきちんと果たしたのだなあ。
それが出ているのが、最後近くの場面。死をも覚悟したであろう危機をくぐりぬけ、これで大丈夫となった時にブレークダウンを起こす。そこで、あらためて、どれだけ張り詰めていたかも見える。それをわからせるハンクスの演技が半端じゃない。
ロンドン映画祭の会見の席で、その演技について「その瞬間がやってきたら、そこまでいくのが僕の仕事なんだよ」と言ったハンクス。
船長でも、俳優でも、やるべきことをきちんと出来る人はそういないから、名船長、名優なのでしょう。
この演技でハンクスは『フィラデルフィア』『フォレスト・ガンプ』に続く3度目のアカデミー賞主演男優賞獲得かというところ。
今回のロンドン映画祭では、この『キャプテン・フィリップス』が開幕映画、ハンクスがウォルト・ディズニー役の『ウォルト・ディズニーの約束』が閉幕映画。閉幕会見にも登場したハンクスは「寝袋で寝ていたんだよ」と笑わせた。
映画祭期間中ずっと会場にいたというジョークだが、もちろん、そんなことはない。ロンドン開幕後は東京映画祭開幕にも顔を出すなど世界中を飛び回っていた。
ずっとロンドンにいたにもかかわらず、レインダンス映画祭にロンドン映画祭と1ヶ月弱の間に60本を試写した私は閉幕時ヨレヨレ。時差ぼけも疲れも感じさせることなく快活にジョークを飛ばすのを見て、スターとしてもきちんと仕事をこなすハンクスえらい!と心底思いました。
『キャプテン・フィリップス』 11月29日公開 |
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妻(キャサリン・キーナー)に見送られ、貨物船に乗り込むフィリップス船長(ハンクス)。無事出航し滞りなく船での日常が過ぎていくかに思えたある日、全速力で追ってくるボートが確認され…
監督 ポール・グリーングラス
出演 トム・ハンクス、バーカド・アブディ、バーカド・アブディラマン ほか
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2013.11.25 掲載
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