今年、ベルリン映画祭の開幕を飾った『グランド・マスター』。中国拳法の頂点に立つグランド・マスターを目指す者たちが描かれる。主人公となるのがイップ・マン。ブルース・リーの師匠としても有名な、実在した中国拳法の達人だ。
『グランド・マスター』は、ウォン・カーウァイ監督が10年余りの構想、準備期間を経て完成させた、待ちに待たれた作品でもある。
孫に囲まれた晩年のマンの映像を見て、その人となりに惹かれたというカーウァイ監督。拳法の達人とはいかなるものか、取材に3年を費やした。そして、もっと取材を続けたかったと言うほど感銘を受けた。「達人たちが、皆、慎ましく、節度を保っているのは、武器を持つという自覚からなのです」
己の強さを知るが故に慎ましい…かっちょえー。その、かっちょえー達人像を体現してくれるのがマン役のトニー・レオン。静かで控えめな佇まい。でも、笑っちゃうくらい強い。他派の陣地で、現れる強者どもを1人、また1人と破っていくシーンは、ちょっとブルース・リーの『死亡遊戯』みたい。
その他派のお嬢様ルオメイ役がチャン・ツィイー。自らも拳法の使い手で、マンに挑んでいく。マンとの緊迫した戦いの最中、ルオメイがマンに恋心を抱く瞬間も見せ場の1つ。でもマンは妻帯者、しかも大変に家族思いの人でもある。
ツィイーがレオンにかなわぬ恋心を抱くといえば、チャン・イーモウ監督『ヒーロー』もそうだった。そういえば、マンの夫人役のソン・ヘギョ、『ヒーロー』でレオンの恋人役だったマギー・チャンとも、艶やかで女っぽい。やはり本命はそういう人で、キリリと意志的で、うっかりすると少年みたいなツィイーには、かなわぬ恋が似合うのかしら。
などなど過去のカンフー映画を思い起こさせつつ、繰り広げられるのはしっかりカーウェイ監督の世界。1930年代から50年代までの中国を舞台に、戦争の大波に飲み込まれていくそれぞれの運命が悲しい。流麗な映像で描かれるアクションはもちろん、セピア色の恋な感じもたまらない。
アクション映画好きの彼氏も、恋愛映画好きの彼女も満足させる、無敵のデート・ムービーだ。
修練を重ね、詠春拳の道を究めようとするイップ・マン(レオン)の平和な日々は、全中国拳法の頂点に立つ者、グランド・マスターを決定しようという他派からの申し出によって破られた。南の代表に選ばれたマンは、戦いに赴く。時代は、戦争の足音が聞こえ始めた1930年代。家族を守り生き抜く戦いも余儀なくされるマン。一方、ライバルとしてマンと出会うも、味方だった男に父を暗殺されたルオメイ(ツィイー)には、マンが心の拠り所となっていき…
監督 ウォン・カーウァイ
出演 トニー・レオン、チャン・ツィイー ほか
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2013.5.31 掲載
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