アル中になって戦場から戻った元海兵と新興宗教の教祖のお話。言ってしまえば胡散臭い宗教家にちょろいカモだが、それだけでは片付けられない。それが、この話を哀しいものにしている。
社会から落伍したような男には、自分に目を向けてくれる人物というだけで、うれしい。すぐに熱烈な信者、そして、教祖に歯向かう者に牙を剥く用心棒のような役割まで担うようになる。
一方、時に自信を失いかけるインチキ教祖にも、そんな男の存在がうれしくないわけがない。お互いの弱い部分で結ばれたような教祖と男。社会的にはどうあれ、その関係が続いたら、それはそれでお互い幸せだったろう。だが、やはり、そうはいかない。
アル中男を演じたホアキン・フェニックスがすごい。くしゃっと縮んだような、重度アル中患者の顔になっている。流れに任せて漂う無気力さの反面、火がついたような怒りも見せる。
教祖を演じるのが、近頃では主演もこなす名脇役、監督業にも進出したフィリップ・シーモア・ホフマン。こちらも、厚顔無恥の詐欺師ながら人情味も感じさせるのが、いかにも新興宗教の教祖らしい。
教祖の妻を演じるのは、これまた、最近メキメキ頭角を現している若手エイミー・アダムスと、達者が揃った。論理の矛盾をつかれ、自信を無くした教祖を奮い立たせもする、教祖以上に鉄面皮な妻だ。その奮い立たせる方法も笑っちゃうようなダイレクトさで、教祖の俗物性が露呈するシーンになっている。この妻、後半、大きく育った教団では、冷徹な経営者の顔も見せる。
この映画は、サイエントロジーの始祖をモデルにしている。トム・クルーズ、ジョン・トラボルタ、ジュリエット・ルイス…と数え上げたらきりがないほどスターにも信者が多い、あのサイエントロジーだ。それを、こんなふうに見せては、一波乱あるのではとワクワク心配していたが、今のところ、苦情などは出ていないようだ。
モデルにしたとはいえ、教祖の名前は変え、サイエントロジーの名前も出していない。教団側も、それに文句をつけたら、かえって信憑性が増すというものでもある。両者とも、大人の対応というやつですね。
第二次世界大戦から戻った元海兵(フェニックス)、デパートの肖像写真コーナーで働くが、戦地ですっかりアル中になってしまった男には長く続けられない。そんな時、船上パーティーをしている一団に出会う。その中に、男の内面を解きほぐすように質問を繰り出す不思議な人物(ホフマン)が。すっかり心酔した男は、すぐ一団に加わるが…
監督 ポール・トーマス・アンダーソン
出演 ホアキン・フェニックス、 フィリップ・シーモア・ホフマン、エイミー・アダムス ほか
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2013.3.23 掲載
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